JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_63 〜Endangered Species〜

 セントルシアには数多くの絶滅危惧種がいます。生命が繁茂する海洋性熱帯気候の島国において、多くの動植物が独自の進化を遂げ、この国でしか見られない固有種となっているためです。St. Lucia Thrasher(小鳥)、St. Lucia Boa(大型ヘビ)、St. Lucia Racer(ヘビ)、St. Lucia Whiptail(トカゲ)、St. Lucia Anole(トカゲ)など、どの種も愛おしくて仕方がありません。ところが、セントルシアの野生動物のドキュメンタリー映画「Saint Lucia – The Wild Side」を鑑賞したとき、絶滅危惧の主な原因の一つとして、生息地が失われつつあること(Habitat Loss)が挙げられていたのです。もちろん、地球温暖化の影響が、生息環境に慢性的な変化をもたらしているのかもしれません。しかし、外国人観光客をターゲットにした海外資本が、どう考えても持続可能とは思えない開発を行なって、生息地を破壊していることは、誰の目にも明らかなのです。(写真「St. Lucia Whiptail 」は、Saint Lucia National Trust 配属の隊員が撮影)

 農業省の森林局に環境教育課があり、偶然にも、会議において担当者に質問する機会に恵まれましたので、単刀直入に切り込んでみました。「絶滅が危惧される動植物の生息地喪失に、リゾート・ホテル建設が大きく影響しているようですが、開発を規制することは考えておられますか?」と。「生息地の減少は、非常に重要な問題」との認識は示されたものの、「行政機関には産業振興を司る部署もあり、開発と自然環境保護のバランスは、私たちにとって大きな課題」という、最も想定される答えが返ってきました。「開発を規制するつもりはない」という意味が言外に含まれているような気がしてなりませんでした。

 第30話でもお話ししたように、リゾート開発は、私たちの歩く権利「Right to Roam」をも侵害しています。しかし、企業に社会的使命感があれば、リゾート・ホテル完成後に、ハイカーの私有地内の通行を許可することもできるでしょう。実際に、第28話に登場したシュガービーチでは、リゾート・ホテルのセキュリティーが、私の「Right to Roam」を気持ちよく認めてくれました。広い意味での多文化共生であり、Win-Winの関係性を築くことが可能なのかもしれませんね。ところが、動植物にとっての生息地破壊は、不可逆開発以外の何ものでもあり得ません。特に、絶滅危惧種は、一度絶滅してしまえば、もう元に戻ることはないのです。なんとかする方法はないのかと、思いを巡らせていたところ、セントルシア島の南部の湿地帯が、2002年にラムサール条約に登録された、という話を思い出しました。国内の行政機関の判断を飛び越えて、人類の成熟した知恵が、自然環境を見守ってくれているのです。ラムサール条約は、立ち入りを禁止するものではありません。湿地を保全し、賢く利用しながら、未来に残していくための国際協力なのです。そして、セントルシア南部のVieux Fort地域の南東海岸一帯(Maria諸島を含む)が、Point Sable 環境保護区域(PSEPA)として、2007年に法的保護を受けるようになったのです。今は、Saint Lucia National Trust など複数機関によって、共同管理されているとのことです。私は、守られているマングローブ林や、湿原、干潟、そしてそこに生きる水鳥たちに、にわかに会いたくなり、思い立って島南部のSavannes Bayを訪れることにしました。

 できるだけ条件の良い景色に臨みたかったので、その日の干潮予想時刻の午後4時を目指して、私は現地に入りました。すると、そこには午後の柔らかな日差しを映し出す、美しい干潟が広がっていたのです。水鳥の鳴き声が特に印象深く、平和で穏やかな周囲の雰囲気を象徴しているかのようでした。実際に泥地まで近寄って、目の当たりにしたわけではないのですが、バクテリアが有機物を分解し、濾過することによって、海水が浄化されていく様子が、まるで音に聞こえるようでした。生物多様性を育む「海のゆりかご」を、見事にイメージすることのできる光景でした。国際条約や国内法によって、自分たちが守られていることを、ここに棲む動植物たちは、知る由もありません。しかし、リゾート・ホテル事業者の手の届かない場所に彼らがいること、そしてこの環境を末長く次の世代に受け渡すことができることを思うとき、私はとても幸せな気持ちになることができました。

 「いきとしいけるもの、すべてに慈悲を」とは仏教の教えですが、セントルシアの大聖堂の入り口にも「Door of Mercy」とあります。成熟していく社会の一員として、生物多様性との共生を、しっかりと考えたいものです。

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