2026/06/09 Tue
自然
隊員Gのセントルシア日記_81 〜Trade Wind〜

拙宅を管理する大家さんは、社交的で、かつエクササイズに熱心です。自ずと、身体を動かすことが好きな友達が多くなります。仲間うちで、ハイキング等の野外活動を楽しむことも、少なくないようです。そして、今回、ご縁があって、テナントである私も、ハイキングに誘われたのです。集合地点は、公共交通機関であるミニバスの1E路線終点のMonchy Village。目的地は、そこから歩いて1時間半ほどのところにある岬Comerette Pointです。今はもう帰国した先輩隊員から、話を聞いていましたので、一度歩いてみたいと思っていたコースです。集合時間は、早朝5時30分。カリブの人々も、昼間の暑さは避けたいようですね。おかげ様で、涼しいうちに歩き切ることができ、朝10時前には解散していましたので、清々しい充実感を味わうことができました。

大西洋側の岬ですので、カリブ海側の表情とは、大きな違いがあります。東から吹きつける貿易風の影響を受け、ドライフォレスト化しているのです。セントルシアは海洋性熱帯気候ですので、温暖多雨です。ところが、大西洋側(東側)では貿易風が強いため、蒸散によって葉の気孔から出る水蒸気が、次から次へと飛ばされてしまうのです。水分が失われて乾燥状態に陥るのです。加えて、火山性地質の水分保持力が低いことも、乾燥を作り出す遠因と考えられます。上の画像を見れば、貿易風の勢いがいかに強いかを、お分かりいただけると思います。風が吹き抜ける方向に木の幹が曲がっており、葉のつき方もまばらなのです。また、下の画像は、サボテンですが、恒常的な乾きを象徴するような存在です。非常に中米らしい光景ですよね。
ところが、その下の画像にあるように、近くには湿地帯もあって、マングローブを見かけることもあるのです。マングローブと言えば、逆に湿潤状態を象徴するような存在で、そこで多様で健やかな生命活動が行われていることを教えてくれます。実は、この湿地も、貿易風の影響を受けています。海岸の砂が、強い貿易風に吹かれて砂州となり、川の河口を塞いでしまった結果なのです。岬にはColorful Tents と呼ばれるオートキャンプ場も常設されており、荒涼感の中で野外生活をしながら週末を楽しんでいる人々もいました。 自然の慈しみ方は十人十色ですね。


さて、大西洋を通り抜け、大量の水蒸気を含んだ貿易風が島中央部の山々にあたると、上昇気流が発生します。すると、空気は冷やされ、飽和水蒸気量が下がります。そして、限界に達した水蒸気が水滴となり、雨が降るのです。特に、山のカリブ海側(西側)の谷筋にレインフォレストができやすい仕組みです。キャノピーとなる高木、その木に絡みつくツル植物、恐竜時代を思わせる木生シダ、大きな葉で必死に光合成しようとする背の低い植物など、生命繁茂の森が、気の遠くなるほどの長い年月をかけて完成するのです。
貿易風の活躍は、まだまだ続きます。実は、アフリカのサハラ砂漠から、鉄やリンなどを含んだサハラ・ダスト(微粒子)を運んでくるのです。ミネラル分は、大西洋やカリブ海において、植物プランクトンにとっての肥料となります。海の肥沃化に貢献しているのです。しかし、同時に、大西洋サルガッサム・ベルト形成の一因になっている、とも言われています、海藻にミネラル分を供給し、異常発生の引き金となって、漁師を困らせているのです。さて、最後の画像は、とてもカリブらしいサンセットですが、実はこの美しい夕焼けにも、貿易風によって運ばれるサハラ・ダストが影響しています。元々、夕日の光は、大気の層の中、長い距離を通り抜けて、やってきます。光の分散が進みますので、結果として波長の長いオレンジ色の光だけが、私たちの目に届くのです。そこに、サハラ砂漠から飛んできた微粒子が加わると、より光の分散が進み、より鮮やかなオレンジ色に染まることになるのです。科学的な説明は、少し無粋に響きますか。ロマンティックなビーチのサンセットを愛でる気持ちに、変わりはありませんよ。

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