JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_38 〜Singing at Night〜

 セントルシアには野良犬がいます。私は、子どもの頃に犬に噛まれた経験があり、今でも犬に吠えられると怯えてしまいます。60年が経っても、トラウマが治癒することはないのでしょうね。ところが、セントルシアの野良犬は吠えないのです。怪しい人影に吠えることによってご褒美がもらえる番犬は、もちろん各家庭で飼われています。これに対し、野良犬の場合は、吠えてもなんの得にもならないのです。逆に、吠えることによって、うるさがられ、餌にありつけない可能性があるのかもしれません。見ず知らずの人間に、近寄ってくることもなく、一定の距離を保っているようです。日本ではもう野良犬を見かけることはありませんので、セントルシアに来た当初は違和感がありました。しかし、全く利害関係がありませんので、共生社会を生きるものどうし、今は互いに干渉することなく、平穏に暮らしています。そう言えば、配属先のカレッジで清掃係を務める女性は、「She is my friend!」と言って、懇意にしている野良犬を紹介してくれました。全ての野良犬が、それぞれ人間の友達をつくって、餌にありつけることを私は祈ります。まるで、物語から飛び出してきたかのような、Skinny Dog(痩せ犬)ばかりなのですから。昼間はおとなしい野良犬も、夜には吠えています。互いの生存を確認しているのでしょうか。求愛行動なのでしょうか。本来の目的は定かではありませんが、どうやら仲間どうしでコミュニケーションを取り合っていることだけは、確かなようです。

 さて、セントルシアに、蝉時雨はありません。沖縄や台湾、タイ、マレーシアなど、アジアの亜熱帯地域や熱帯地域を旅したときは、蝉の鳴き声を耳にしました。それ故、出発前は、セントルシアの蝉時雨を楽しみにしているところがありました。ところが、私たち2024年度2次隊がセントルシアにやってきた1月に、蝉が鳴くことはありませんでした。「常夏の国でも、さすがに1月に蝉が鳴くことはないのだろう。」と、その時は自分自身に言い聞かせていました。しかし、7月になっても、8月になっても、蝉が鳴き出す気配はないのです。調べてみると、降水量の多いカリブの火山地質は、蝉の幼虫が地中で数年〜数十年を過ごすのに適していないようです。鳥やトカゲなどの天敵が多いことも、蝉が大合唱しない理由の一つかもしれませんね。

 代わりと言ってはなんですが、こちらで風物詩と言えば、Whistle Frog と呼ばれるカエルの夜の合唱をあげることができます。日本でカエルの鳴き声と言えば「ゲロ、ゲロ」なのですが、カリブのこのカエルは「ピー、ピー」と本当にホイッスルの音のように鳴くのです。これがまた、乙な音色なんですよ。夜、寝室で耳にすると、心が安らぎます。手前勝手な想像で申し訳ありませんが、虫の音と、蛍の明かりが調和する日本の静かな夜を、何故か連想してしまいます。(写真はCharles J. Sharp氏撮影によるWikipediAのフリー素材です)

 その他、セントルシアの夜と言えば、やはりHouse Gekko(ヤモリ)の鳴き声が特徴的です。第22話でもお話ししましたが、甲高く「クッ、クッ、クッ」と鳴きます。私は日本でホトトギスが鳴くのを聞いたことがありましたので、同じように夜行性の鳥が鳴いている、とばかり最初の頃は思っていました。ところが、実は、似ても似つかぬヤモリの鳴き声だった、という訳です。また、House Cricket(コオロギ)が何度か部屋に迷い込んでくることがありました。彼らは日本のエンマコオロギとは違って、「リリリリリ」と鳴きます。熱帯の昆虫は、温帯の生物に比べて、サイズが大きいと思われている方がいるかもしれませんが、種によリます。私が見たコオロギは、エンマコオロギより一回り小さく、鳴き声どおりのかわいい印象がありました。ちなみに、Cricketの綴りは、球技のクリケットと同じです。何かロマンチックな関係があるかもしれない、と興味をもって調べたのですが、両者の語源は全く異なるようです。(写真は故Geyersberg 氏撮影によるWikipediAのフリー素材です)

 セントルシアでは、日本のような熱帯夜になることはなく、私が夜にエアコンを使うことはありません。窓を開け放して、Whistle Frog(カエル)やHouse Gekko(ヤモリ)やHouse Cricket(コオロギ)の大合唱を心ゆくまで楽しむことができるのです。言い得て妙ですが、英語では、まさに「They are singing!」というんですよ。そのうち、野良犬が遠吠えしたり、鶏が深夜にも関わらず朝を告げようとしたり、夜の野外音楽堂には脇役も登場します。そして、セントルシアの夜は穏やかに、ただ穏やかに更けて行くのです。

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