2025/08/28 Thu
活動 現地生活
隊員Gのセントルシア日記_33 〜English and Me〜


セントルシアの公用語は英語です。ただし、交易言語として生まれたフランス語系クレーオールを使っている人も根強くいますので、公用語といえども、少なからずその影響を受けるようです。すなわち、少し聞き取りにくい英語となっているのです。例えば、Hの発音が強調され過ぎて、Fの発音に近いように思われます。具体的には、「Third」の発音が「サード」ではなく、(少なくとも私には)「ファード」と聞こえるのです。アメリカ人であれば「Herb」は間違いなくサイレントHで「アーブ」と発音するのですが、おそらくルシアンは「ハーブ」と発音することでしょうね。以前、イギリスを旅した時、Hを「エイチ」ではなく「へイチ」と発音するネイティブに出会って、感動したときのことを思い出します。また、アクセントが容赦なく外されます。例えば、「Hospital」は本来であれば、最初の音節にアクセントがあるのですが、「ホスピタ〜ル」と最後の音節にアクセントが移されます。そして、「Friday」も本来のアクセントはファースト・シラブルにありますが、ルシアンは見事に「フライデ〜ィ」と語尾を強調するのです。しかし、滞在期間満8ヶ月を迎えようとしている今、何とか、アクセントを外されても、単語が自然に私の耳に入ってくるようになりました。私のミッションである形成的評価(Formative Assessment)の遂行のためには、カレッジの学生たちとのワン・オン・ワン・ミーティングを欠かすことができませんが、何とか私の語学力が追いついて、面談のスタートラインに立てるようになりました。


私には、この2年の派遣期間で「英語脳」を作り上げたい、という裏ミッションがあります。私は、12歳の時に義務教育として英語を学び始めました。その後、かれこれ50年余りが経過したことになります。しかし、ネイティブに尋ねられた時に、「私は、英語を学び始めて、もう50年になる。」と答えるのは、少々面はゆいところがあります。と言うのも、未だに、英語で受信したものを日本語にプロセッシングして理解したり、日本語で考えたことを英語に翻訳して発信したりしています。英語で聞いたことを英語で理解し、英語で考えたことを英語で伝えたい、とそんな夢をもっているのです。私には、物欲はありませんが、上達欲はあり、教員在職中からこの夢に向かって、自分なりに努力を積み重ねてきました。ニュース番組を英語で聞いたり、英語学習者用の英字新聞を読んだり、原書で書物を読んだり。実用英語検定も、何度も受検しました。準1級までは順調に駒を進めることができたのですが、残念ながら1級のチャレンジには二度失敗しています。更には、オンライン英会話も試みました。しかし、日本国内で「英語脳」を作り上げることは、余程環境に恵まれない限り、難しいのではないか、というのが私の結論です。従って、今回のJICA海外協力隊派遣には、大いに期待を寄せています。もちろん、大義は「途上国の支援」「異文化理解の深化と共生」「帰国後の社会還元」にあります。あくまでも、「英語脳づくり」は裏ミッションであり、「英語脳の中では、どんな化学反応が起こっているのだろうか?」という問いに対する、私的な探究活動なのです。


私は、子どもたちに対して、「あなたの脳は、一日一日作り変えられ、どんどん賢くなっています。」と伝え、勇気づけています。そして、かく言う私自身が、英語脳に近づきつつあることを、日々実感し、勇気を得ています。例えば、アメリカのABCやCBSのニュース番組を英語で理解できるようになったり、洋画のセリフをフォローできる場面が増えたり、ルシアンがアクセントを外した「イグザクトリ〜ィ」が耳に馴染むようになったり、という変化は、私にとって非常に喜ばしいものでした。しかし、まだまだ現状に満足しているわけではありません。例えば、歌については、カントリー・ミュージックなどは歌詞を聞き取りやすいのですが、リズムの激しい曲などについては、ほとんど聞き取れないことさえあります。また、英語を喋っているかと思えば、いつの間にかクレオールに切り替っているようなルシアンの話には、依然として全くついて行くことができません。
実は、私は中国語の学習も、細々ながら毎日継続しています。「英語脳」を獲得できた暁の、次の目標が「トリリンガル脳に近づきたい」だからです。「トリリンガル脳の中では、どんな化学反応が起こっているのだろうか?」という問いに対する、単純な好奇心なのではありますが、人間の欲には本当に限りがありませんね。自分自身の中では、「ライフスパンの探究活動」と位置づけているのですが。
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