2025/06/20 Fri
生活 食べ物
隊員Gのセントルシア日記_21 〜Apricot & Lemon & Dasheen〜


ローカル・コミュニティーの方々と親しくさせて頂くようになってから、頂き物をする機会が増えました。ルシアンの生計の立て方として、本業とは別に、居宅の敷地内に果樹や野菜の畑をもって栽培し、自給自足に近い生活をしている人が、少なくないようです。(中には、鶏や山羊を飼っている家もあります)そして、「ぜひ俺たちの文化を体験してくれ。」と言って、ローカル・フルーツやローカル・ジュースやローカル・フードを紹介してくれるのです。「男のひとり暮らしなので、そんなに食べられないよ。」と切り込んでも、「気にするな、家でたくさん作っているから!」と上手く返されてしまいます。おかげで、うちの冷蔵庫はローカル作物で大にぎわい。(さすがに、大家さんに少し助けてもらうこともありました。)頂いた品々の中で、ローカル・フルーツとして頂戴したのが、アプリコットとマンゴーです。アプリコットといえば、日本では、杏の小さな実が頭に浮かぶのですが、ここカリブ、特にセントルシアでは、革のような外皮をもったソフトボール大の果物を指します。熟した柿のようなものをイメージして頂けると、少し近づけるかもしれません。ただし、種がゴルフボール大でとにかく硬い。子孫繁栄の意志の強さを感じずにはいられませんでした。発芽を誰にも邪魔されたくないのでしょうね。
それにしても。アプリコットという名称は、世界的には通常、杏の果実を意味します。従って、本来ならば、少し遠慮して、トロピカル・アプリコットとでも呼ぶべきなのですが、ルシアンたちは全く意に介していないようです。歴史がボタンを掛け違えたのかもしれません。同じような話がもう一つありますよ。ウエスト・インディーズ(西インド諸島)といえばカリブ海に浮かぶ島々のことを指すのですが、実は、インドに到着したと勘違いしたコロンブスが、そのまま名付けてしまったようなのです。アメリカの先住民をインディアンと呼ぶのも、この勘違いに由来していると言いますから、もはや歴史を後戻りすることはできません。


ローカル・ジュース用に頂いたのが、レモンとライムです。外皮が厚くブクブクしていて、不細工です。日本では店頭に並べても、おそらくは余り売れないことでしょう。実は、防カビ剤など全く使っていないので、お勧めなのですけどね。レモンもライムも乾燥を好みますので、日本では、例えば温暖少雨で日照時間の長い瀬戸内海などでの栽培が盛んです。ところが、セントルシアでは、たとえ乾季といえども、雨を避けることはできません。もしかすると、ぶ厚い外皮が雨の侵入を防いでいるのかもしれません。また、濡れた場合に備えて、外皮の凹凸で表面積を増やし、少しでも乾燥しやすくしているのかもしれませんね。
私には、レモンに対する思い入れがあります。大学生の頃、夏休みごとに小学生や中学生を集めて、森の中で教育キャンプを行っていました。その自然の中での共同生活において、私はキャンプリーダー(指導者)を務めていたのですが、酷暑のある日、とうとう疲労困憊してしまったのです。今思えば熱中症気味ではなかったかと思われますが、その大ピンチをレモンが見事に救ってくれたのです。もちろん、社会人になってからは、レモン酎ハイの中に、更に生レモンを絞り込む「追いたしレモン」に、何度も助けてもらっています。


ローカル・フードとして頂いたのが、ダシーンと呼ばれるタロ芋と、食用バナナのプランティンです。ダシーンは、いわゆる里芋ですが、ハンドボール大の球茎です。熱帯では、やはりスケールが違います。2個も頂戴したので、冷蔵庫の在庫を減らして冷房効率を上げる目的で、そのうち1個をすぐに調理しました。(一人暮らしの冷蔵庫は小さく、すぐに悲鳴をあげるのです。)とりあえず、単純に塩茹でにして、5食分の冷凍パックを作りました。もちろん、すぐに味見もしましたが、我ながら、里芋に近い、懐かしい味を再現できたことを、とても喜んでいます。そして、強い味方のダシーンに、心から感謝をしています。
ダシーンもプランティンも、ソウルフードの材料として欠かすことはできません。日本では、ソウルフードと言えば、「地元の食材を活かしたふるさとの味」というあたりの定義になります。しかし、本来の意味は、ソウルミュージックが、奴隷制度時代のゴスペルや人種差別時代のブルースをルーツにもつところと、同じ場所にあります。すなわち、ソウルフードとは、当時の白人が好まなかった部位などを活用しながら、工夫して作られた料理なのです。もちろん今では、「地元の郷土料理」という意味で使われることが多くなっていますが、やはりその文化的背景を知ることで、より美味しく料理を味わうことができるのではないでしょうか。
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