2025/05/03 Sat
文化 生活
隊員Gのセントルシア日記_12 〜Sugar Cane & Banana & Coconut〜


1814年のパリ条約でイギリスのセントルシア領有権が確定すると、イギリスはセントルシアの植民地化を進めました。そして、紅茶に入れる砂糖を作るために、アフリカから多くの奴隷を連れてきて、サトウキビのプランテーション農場で働かせました。かくして、セントルシアにおけるサトウキビ栽培の長い長い歴史は始まったのです。
サトウキビから砂糖を精製した後に残る廃糖蜜をアルコール発酵させて、蒸留し、熟成するとラム酒ができあがります。日本では、ラム酒そのものよりも、レーズンをラム酒に漬け込んだラムレーズンや、ラム酒をベースにしたカクテルのモヒートなどが知られているのではないでしょうか。私が、こちらでルシアンに勧められたのは、何とラム酒をコカコーラで割った「コーク・ラム」でした。彼はこれを国民的ドリンクと言い切っていましたが、いくらか個人的な嗜好が潜在しているように思われます。
蒸留によってアルコール度数を上げる試みは、世界各国で行われています。日本の麦焼酎や芋焼酎のアルコール度数が約20度であるのに対して、ラム酒は約40度ですので、この数字からもカリビアンたちの心意気が感じられるというものです。そう言えば、私が子どもの頃に読んだスチーブンソンの「宝島」の中で、次のような威勢の良い「海賊のうた」が歌われていました。
死人の箱にゃ15人、ヨーホッホー、おまけにラムがひと瓶よ!
酒と悪魔が残りの奴らをやっつけた、ヨーホッホー、おまけにラムがひと瓶よ!


1838年の奴隷解放の後、サトウキビのプランテーションでの労働は、インドからの契約労働者が荷なうことになりました。しかし、その後は、バナナの方が栽培しやすいこともあり、徐々にサトウキビ栽培からバナナ栽培に移行していくことになります。そして、1964年にはサトウキビづくりを停止することになったようです。しかし、1993年にはバナナのつくり過ぎによって、価格が大暴落します。日本でも、みかん農家は、その昔みかん御殿が建つほどの隆盛を誇りましたが、供給過多による価格暴落という同じような悲劇を経験しました。互いに自由主義経済国家ではありますが、調整弁の重要性を思い知らされる過去の教訓です。
日本では、果物としてのバナナがあまりにも有名ですが、こちらではプランテインと呼ばれる調理用バナナもあります。バナナとは違って硬く、甘みもわずかです。早熟から完熟に至るまでのどの段階でも調理可能で、蒸したり、焼いたり、茹でたり、揚げたり、さまざまに調理して、主食として美味しく食べられています。皮を剥くのに包丁が必要になることもありますので、バナナよりもイモをイメージして頂く方が分かりやすいかもしれません。


そして、今、サトウキビやバナナに代わって、ココナッツ栽培が主流になりつつあると言います。ココナッツミルクやココナッツオイルなどが好まれ、健康志向が高まりつつあるという時代背景があるのかもしれません。しかし、本音としては、どうやら作りやすさが一番の理由のようです。というのも、実がなるのに6〜8年はかかりますが、その後70〜80年は安定して収穫できるのですから。産地直送のマーケットだけでなく、路地端でも、ココナッツの頭の部分をナタで削って、ストローを通して、ココナッツウォーターを飲ませてくれます。また、飲み終わると、ナタで半分に割って、果肉を食べさせてくれるのです。未成熟は緑色で果汁が多く果肉は少なめですが、熟したものは茶色で逆に果汁は少なく果肉が厚いとのことです。お好みに合わせて、お選びくださいね。
一国の歴史が、サトウキビとバナナとココナッツに刻まれているセントルシア。過去と現代と未来を見渡すとき、まだまだ荒削りで、課題も多いと言えるのではないでしょうか。セントルシアは台湾と国交のある数少ない国のひとつです。それまでの中華人民共和国との関係を断ち切って、10年後、2007年に正式に国交を結ぶことができたとのことです。私は、この2国に同じような風土を感じており、台湾の成功体験の中に、セントルシアで活かすことができるもの(例えば、農業生産調整や漁業協同組合などの法制度)が必ずあると考えています。日本を含めた国際社会が、相乗効果の期待できるこの2国の友好関係を、暖かく穏やかに見守ることを祈ります。
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