JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_28 〜Right to Roam〜

 世界遺産である双子のピトン山(Petit PitonとGros Piton)を間近で見たい、という衝動に駆られて、Soufriere to Gros Piton というトレイルを歩きました。直近のスフレという港町からPetit Piton の麓を通って、Gros Piton の麓に至るコースです。 おそらくは、訪れた全ての人が、世界遺産登録を心から祝福するであろうと思われる名峰が、2つ仲良く肩を並べてたたずんでいます。そして、第17話でもお話ししたように、奇跡としか表現しようのない火山活動の傑作が、悠久のときを刻んでいるのです。トレイルのどの地点においても、その華麗なる山影に圧倒され放しであった、というのが正直な私の気持ちです。

 私たちが富士山を愛でる心と全く同じように、ルシアンたちはピトン山を宝物のように愛しています。基、東カリブ諸国の全ての人々が、熱い視線を注いでいる、と言った方が良いかもしれません。なぜなら、共通通貨である東カリブ中央銀行の100ドル紙幣に「Les Pitons」(フランス語)として、その麗しい姿が描かれているのです。山を女性に例える文化もありますから、もしかすると、聖人ルチアの神々しさを、ピトン山の荘厳な姿に重ねて、仰いでいるのかもしれませんね。

 トレイルと紹介しましたが、昔とは異なり、今は一部がリゾートホテルの私有地となっていますので、厳密にはハイキングコースにはなり得ません。しかし、怯むことなく、ホテルのメインゲートにおいて、セキュリティー担当者に過去の経緯を話しました。(第27話でお話ししたトレッキング・アプリに、過去にリゾート敷地内の通行を認められたハイカーの投稿が掲載されていました。)すると、快く私の「Right to Roam」を認めてくれたのです。旧宗主国・英国では、この自由に歩く権利が、広く認知されています。(どうやら、過去の行き過ぎた私有地の囲い込み運動を、修正する動きとなっているようです。)例えば、広大な私有地ゆえに、本来ならば遠回りをしなければいけないところに、地主が民衆のために縦断する小道を整えてくれているのです。私が、英国の田園風景の里を旅した時には、粋な地主が、単調に延々と続く道の途中に、休憩用のベンチを設置している例もありました。階級社会の英国ならではの素敵な光景に、心地よいカルチャーショックを受けた時のことが、にわかに思い出されました。

 北部のロドニー・ベイでも、リゾート会社が土地を買い占め、ホテル建設に乗り出した結果、閉鎖されてしまったMt. Pimard Trail というトレイルがあります。頂上からの眺めると、ピジョン・アイランドと本島を結ぶ人工の防波堤が、天橋立のように見えるのではないか、と期待を寄せていただけに、とても残念です。ホテル営業開始の暁には、ハイカーたちの「Right to Roam」が尊重されることを、願うばかりです。できれば、私の協力隊任期である、あと1年半の間に実現して欲しいなぁ。

 帰途は、一部ビーチから終点スフレまでの間、ウォーター・タクシーを利用することにしました。一度カリブ海に舟を浮かべてみたかった、と言えば聞こえは良いのですが、上り下りの多いコースで疲れ切ってしまった、というのが率直な理由です。ところが、舟上においては、Petit Piton を心ゆくまで海側から見上げることができました。結果として、自身の臨場感を更に盛り上げることができましたので、「次回は頂上からの眺望をこの目で確かめてみたい」という気持ちを、益々強くもつようになりました。シュガービーチからスフレ港までモーターボートで5分程度の行程なのですが、歴史に名を刻むイギリス軍もフランス軍も、そしてカリブの海賊さえも、アッと驚く速さで舟は進みました。風を切る私の心は、とても満たされていました。

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