2025/12/04 Thu
文化 生活
隊員Gのセントルシア日記_49 〜General Election〜

第49話は、2025年12月1日に行われた総選挙の観戦記を綴りたいと思います。下院議員の任期は5年(海外協力隊の任期は2年)ですので、その総選挙に立ち会えたことは、とても幸運であった、と言うことができます。セントルシアには、SLP (St. Lucia Labour Party)とUWP (United Workers Party)の二大政党があります。17の選挙区からなる小選挙区制(1つの選挙区から1議員だけが選ばれる)を敷いており、大政党が有利ですので、結果として二大政党制となったようです。日本の衆議院選挙では、ご存知のように、小選挙区制と比例代表区制が併用されており、小政党でも議席を獲得する可能性がありますので、多党制となっています。従って、私は今回、二大政党制の下での総選挙を、初めて経験することになりました。文化の違いを再認識することのできた、とても興味深い選挙戦であった、というのが正直な感想です。

まず、二大政党は、他のカリブ諸国の例に漏れることなく、Labour系とWorkers系に分かれています。Labour は労働者全体、Workers は個々の働く人々を指します。少しわかりにくいので、詳しくお話しすると、歴史的には、Labour系の政党 はより社会全体の福祉や公共サービスを重視し、Workers系の政党 は中小企業や自営業者を含む働く個人の経済活動を重視する傾向がありました。すなわち、前者には「働く人々を社会的にどのように支えるか」という問いが根底にあり(政府主導)、後者には「自分たち労働者が社会をつくる」という発想がある(民間主導)のです。第47話の日記でも、SLPは大きな政府、UWPは小さな政府を形づくる、と誤解を恐れることなく記述しました。しかし、実際のところは、両者にイデオロギー的な対立はなく、海外からの支援と観光業をなくして、社会の営みを語ることはできないという大前提は同じで、大差がないのです。また、前回の総選挙で無所属の候補者が当選したことを受けて、今回は独立系の立候補が増加しました。中には、所属政党を離れた実力者が、政党方針に縛られずに選挙運動を展開して、当選する例もありました。二大政党制も、少しずつ形を変えながら進化していくのかもしれませんね。変化は、社会が成熟していく過程ですから。
選挙戦において最も興味深かった点は、両政党ともに熱気を帯びたサポーターの存在です。まるで、サッカーJリーグのサポーターのように、ユニホーム(SLPは赤、UWPは黄)を着用し、旗をふり、笛を鳴らし、カリブのリズムを刻みながら、政党支持を有権者にアピールしてくるのです。英国プレミアリーグのフーリガンとは言いませんが、ミニバスの中で、両政党のサポーターが口論となり、暴力沙汰になる例もあったようです。事実、12月1日(月曜日)の総選挙当日は、「何が起こるか予測できず、リスクがある」というJICAセントルシア支所の判断があり、私たち海外協力隊員は自宅待機するように指示されました。しかし、選挙当日の投票所の様子を伝える報道を見る限り、有権者はとても落ち着いており、粛々と選挙が執り行われたようです。人々の良識が示された形になったことを、私も国民の皆さんとともに、とても嬉しく思っています。

2000年以降は、総選挙のたびに政権交代が繰り返されていますので、両陣営ともに政権担当能力を最大限に強調して、自信たっぷりの選挙キャンペーンを展開しました。結果としては、21世紀に入って初めてSLPが2連勝しています。「国民ファースト」の現政権の5年間の実績に、多くの有権者がセントルシアの未来を描くことができた、ということなのではないでしょうか。しかし、17名の下院議員のうち、与党議員が14名になりましたので、その多くが大臣または副大臣の席に座ることになります。立法府と行政府において、かなりの顔ぶれが重なってしまうことになるのです。立法府がしっかりと行政チェックの機能を果たすことができるのか、思わず心配になってしまいませんか。心配ごとと言えばもう一つ。選挙戦において、互いに相手陣営を揶揄する言説が飛び交ったのです。国民の皆さんの中には、同胞が憎しみ合うことを嫌う方も多く、或る人は「私たちは皆、神の子なんだから、尊重しあいましょう。」とメデイアを通じて発信されていました。私は、誰かの悪口を耳にすると、それだけで気分が悪くなるタイプですので、典型的なアジア・モンスーン気候の農耕民族です。カリブの血の気の多い海賊たちとは、どうやら肌が合わないようですね。
今回の国全体の最終投票率は47.8%、残念ながら前回総選挙の51.08%を下回りました。やはり、若い世代や都市部の有権者の投票率の低さが、浮き彫りになったようです。日本と同じく18歳以上の国民に投票権がありますので、私の教え子の中にも多くの有権者がいます。「微積分よりも、政治参加の方が大切だよ。」と、思わず声をかけたくなります。
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