JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_70 〜Back-to-Africa Movement〜

 任期2年の隊員には、派遣1年の折り返し時点において、定期健康診断が義務づけられています。私のメディカル・チェックは、エチオピア出身の医師が担当してくれることになりました。日本人である私の名前の発音が、とても綺麗だったので、その因果を彼女に尋ねてみると、次のような明快な答えが返ってきました。エチオピア文字には、33ある基本子音に対して、それぞれ7つの派生系があり、その中に大概の言語の発音が含まれている、というのです。(日本語の場合は、K、S、T、N、H、M、Y、R、Wの9つの基本子音に対して、それぞれ5つの派生系があります。例えば基本子音Kに対しては、KA、KI、KU、KE、KOの5つがあるのです。)そう言われると、さっきのは日本語の発音、今のは中国語の発音、と分かるような気がしてきました。世界には、なんと素晴らしい文化があるのでしょう。(写真は、Wikipediaのフリー画像です。)

 エチオピアは、短期間のイタリアによる占領を除けば、欧米の植民地にはなっておらず、アフリカの尊厳と独立の象徴とされてきました。これに対して、20世紀初頭のカリブ諸国には、植民地支配による統治が、過去の奴隷制の記憶と相俟って、黒人に対する差別が根強く残っていました。そのような風潮の中で、「黒人の尊厳を取り戻そう!」「アフリカにルーツをもつ誇りを取り戻そう!」とするラスタファリ運動が、1930年代にジャマイカで生まれました。そして、エチオピアを理想の地(Zion)と考えて、白人中心社会(Babylon)からの解放を目指したのです。このラスタ思想は、カリブ海全体に広がり、セントルシアも大きく影響を受けています。例えば、レゲエ。アフリカ回帰や反バビロンなどのラスタ的メッセージが歌詞に込められており、精神的な文化として人々の共感を呼んでいるのです。私は、以前の世界日記において、「本場カリブで聴くボブマーリーは、臨場感があり、一味も二味も違う」と表現しましたが、このラスタファリの本流を日常生活の中に感じることができるからなのでしょうね。

 髪を束状に固めるドレッド・ヘアは、古代エジプトをはじめ、以前からアフリカの生活の中にあったのですが、ラスタファリ運動によって、「黒人尊厳」や「アフリカ回帰」のシンボル的な価値が与えられました。もちろん、ラスタ信仰として厳格に髪を固める人がいれば、文化的なアイデンティティーとしてドレッド・スタイルを選択する人もいます。そして、単なるファッションとして楽しむ若者もいるのです。中には、聖書の「髪を切ってはならない」という解釈を忠実に守る人もいます。タムやラスタ・キャップというラスタカラー(赤・黄・緑・黒)の丸くて深い帽子を被り、ドレッドを覆って、敬意や節度を表現しているのです。

 ここで問題となるのが、「文化の尊重(Cultural Appreciation)」と「文化の流用(Cultural Appropriation)」の対立です。ドレッド・ヘアの歴史や意味をよく理解し、敬意をもって、文化に関わっているのか。それとも、黒人の尊厳、アフリカのルーツの誇り、抵抗の歴史などの意味を抜き取って、単なるおしゃれに矮小化しているのか。今は、髪をねじって形を作ったり、自毛にエクステンション(人工ドレッド)を編み込んだりすれば、簡単にドレッド風のオシャレを楽しむことができます。ところが、白人やアジア人がドレッド・ヘアにしている姿を見かけると、私自身はどうしても違和感を感じずにはいられません。ドレッド・ヘアを対象とした議論ではありませんでしたが、私自身も訓練生時代に仲間たちと共に「文化の尊重と流用」について考えたことがあります。従って、もしかすると、過剰に意識しているのかもしれません。しかし、ラスタファリ文化やクレオール文化は、奴隷制度や黒人差別という負の人類史を乗り越えてきているだけに、世界中が尊厳の気持ちをもって迎え入れる必要がある、と私は考えているのです。

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