2026/04/10 Fri
文化
隊員Gのセントルシア日記_73 〜British West Indies〜

セカンダリー・スクールの校長職を務められて退職された紳士が、ご近所にお住まいで、時々ふと疑問に思ったことを質問させて頂いています。今回は「カリビアンというアイデンティティーはありますか?」という、少し一般のルシアンには尋ねにくい問いを投げかけてみました。例えば、ジャズ・コンサート等において、MCが「私たちは皆カリビアン!盛り上がっていきましょう!」と、カリブ諸国から集まった聴衆に呼びかけるシーンがありました。しかし、海洋性熱帯という気候や、奴隷制度、プランテーション農場という歴史を共有していることは確かなのですが、そもそも英語、仏語、西語、蘭語という異なる言語を話すものどうしが、連帯感を感じることができるものかどうか疑問だったのです。案の定、彼からは、「私自身は、West Indies という言葉には馴染みがあるが、カリビアンという言葉に実感はない。」という答えが返ってきました。カリブ海は広く、大陸側のメキシコ、ベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ベネズエラなどの国々もカリブ海に面しているので、カリビアンという言葉に実質的な連帯意識を感じることはない、という意味合いでした。

調べてみると、面白いことが分かりました。カリブ海に浮かぶ島々は西インド諸島(West Indies)と呼ばれ、西側に並ぶ大きな島と、東側に並ぶ小さな島に、地理的に分類されています。西側にあるのが大アンティル諸島(Greater Antilles)で、キューバ、ジャマイカ、ハイチ、ドミニカ共和国、プエルトリコなどの島々を挙げることができます。そして、東側にアーチ状に連なるのが小アンティル諸島(Lesser Antilles)です。Lesser Antillesは更に、セントキッツ、ネービス、アンティグア、バーブーダ、モントセラット、グアドループなどの風下諸島(Leeward Islands)と、ドミニカ、マルティニーク、セントルシア、セントビンセント、グレナダなどの風上諸島(Windward Islands)に、小分類されます。以前の世界日記でもご紹介しましたが、その昔、貿易風に乗ってやってきたヨーロッパ人が、最初に到着したのが風上(Windward)に位置する島々で、その後に辿り着いたのが風下(Leeward)の島々だったので、この名がつけられたとのことです。興味深いことに、風上諸島は丁度、北アメリカ大陸プレートや南アメリカ大陸プレートとカリブプレートの沈み込み帯に位置しており、火山活動によってできた島々(火山弧)なのです。従って、比較的急峻な地形が多くなっています。これに対して、風下諸島は、珊瑚礁などの石灰岩質の土壌でできており、平坦な地形が多くなっています。ただし、少し東に外れるバルバドスは、石灰岩質の土壌ではありますが、風上にも風下にも分類されることはなく、例外的な位置付けがされています。
語源を調べるのも楽しい探究です。新世界を求めて航海を続けていたヨーロッパ人が、インド発見と勘違いをして、西インドと名付けたことは、あまりにも有名な話です。後戻りできない、世紀の誤りだったのですね。そして今回、Antilleという名の語源を調べてみると、何と「伝説の島」だったのです。やはり、カリブの島々には、世界中の人々が「宝島」のイメージを重ねているようですね。ロマンチックで、思わずワクワクしてしまう命名ではありませんか。(白地図はWikimedia Commons のフリー素材です。)

さて、実はWest Indiesは、他にも細分の仕方があります。イギリス領西インド諸島(British West Indies) やフランス領西インド諸島(French West Indies) など、植民地時代に、旧宗主国ごとに呼び分けられていたのです。イギリスが植民地支配していたカリブの島々は、ジャマイカ、セントキッツ、ネービス、アンティグア、バーブーダ、モントセラット、ドミニカ、セントルシア、セントビンセント、グレナダ、バルバドスなどです。多くの国々が独立を果たしましたが、モントセラットなどは、今もイギリスの海外領土となっています。また、フランスが支配したカリブの島々は、グアドループ、マルティニークなどですが、こちらは現在もフランスの海外県(Department)となっており、実はEUの一部なのです。何か不思議な感じがしませんか。
以前は、British West Indies というクリケットの合同代表チームがありました。1958年〜1962年に国家連合(West Indies Federation)を作ろうとする動きがあったのです。結果として連合は短命で崩壊しましたが、地域的な連帯の灯火が消えることはありませんでした。クリケット代表チームはその象徴的な存在となったようです。そして、1970年代、1980年代には世界最強チームとして戦績を残しました。その後は、伝統がWest Indies Cricket Team に引き継がれ、セントルシア出身のDaren Summy 選手がキャプテンを務めたT20形式のワールドカップ大会では、2012年と2016年に優勝しています。やはり、古今東西、スポーツには人々の血が騒ぐようです。冒頭に登場願ったMr. Principal氏も、ノスタルジックな想いでWest Indiesの連帯感について語ったのでしょうね。
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