2026/04/10 Fri
文化
隊員Gのセントルシア日記_74 〜Multi-Cultural Co-Existence〜

大麻と言えば、日本では所持するだけで「反社会的行為」として、とても厳しい制裁が課されます。日本の法制度のもとで、教育を受け、仕事に勤しみ、幸せな暮らしを営んできた私にとっては、間違っても手を出してはいけないのが、ドラッグなのです。ここセントルシアでも、大麻は基本的に違法薬物です。しかし、どうやら「反社会的行為」とまでは認識されていないようです。大量所持や商業栽培、販売・流通は違法なのですが、個人使用のための少量所持(30gまで)や、家庭栽培(最大4株)は非犯罪化されているのです。その根拠として考えられるのが、宗教的な活動への理解です。第70話でお話したように、1930年代以降、「黒人の尊厳を取り戻そう!」「アフリカにルーツをもつ誇りを取り戻そう!」という、ラスタファリ信仰がカリブ全体に広がりました。彼らには、車座になって語り合う「理性の対話」という実践があります。その中で、大麻が、心を開いたり、平等な対話を促したりする上で、重要な役割を果たしている、と主張しているのです。歴史的には、19世紀、奴隷制度廃止後の労働力不足を補うために、インドから契約労働者がやってきましたが、彼らには、ヒンドゥー文化の中で、大麻を宗教的、瞑想的に使用する習慣があったのです。このインド人が持ち込んだ文化が、カリブに根付いて、ラスタファリ思想に影響を与えたようです。当然のことながら、イギリス統治下では、大麻は違法とされました。これに対して、アフリカ回帰思想を掲げるラスタファリ運動は、支配体制に抵抗するために、自然と一体となって、精神を解放する大麻を、その実践の中に取り込んだのです。それにしても、大麻が文化として認められているとは、日本人の私には衝撃が大きすぎます。知り合いのローカル・ルシアンに意見を求めても、大麻使用に問題点を感じはするものの、宗教的な実践という大義名分には手も足も出せない、と言うのが正直な気持ちのようです。手繰り寄せてきた「多文化共生」が、また遠ざかってしまうような気がしてなりません。

アメリカ合衆国の連邦政府は、カリブ海において麻薬密輸に関与していると疑われる船舶を、空爆して破壊しています。問答無用の所業は、とてもショッキングです。特に、セントルシア人漁師の乗り込んだ船舶が、攻撃に巻き込まれたのではないか、というニュースが飛び込んできた際は、言葉を失いました。コカインは南米が生産国、アメリカ合衆国が消費国と言われており、カリブ海はその輸送ルートとなっています。ギャングが暗躍し、資金を稼ぐための温床となっているのでしょうね。しかし、末端で密輸に携わっているのは、もしかすると、ごく一部の漁師なのかもしれません。地球温暖化の影響で漁場が変化しています。船舶の燃料が高騰しています。サルガッサム(海藻)が異常発生し、漁を困難にしています。様々な複合的な理由によって漁獲量が減少し、今、漁師の生活が不安定になっているのです。そのような状況の中で、海に出ることが不自然ではない漁師、そして副収入が喉から手が出るほど欲しい漁師が、小さな島から小さな島へ、船の上で密輸品を受け渡していく光景は、考えられる一つのストーリーなのかもしれません。(あくまでも虚構です。間違いがあれば、ごめんなさい。)しかし、反社会的組織は、リスクを分散するために、善良な漁師を利用しようとしているのです。これは、ハイ・リスク、ハイ・リターンの副業などではありません。身の破滅の始まりにほかならないのです。

カナダでは、条件付きながら、大麻が合法化されていると聞きます。先進国でありながら、驚くべき選択をしたものです。機会があれば、その考え方の背景を訪ねて、またミニ探究してみたいと思います。私自身は、「社会は、より成熟していく方向へと、絶えず進化を繰り返している。」と、楽天的に考えています。今回の世界日記は、反社会的行為や、反社会的組織という、極端な例を出して、多文化共生への道のりの遠さを、読者の皆さんと一緒に考えてみました。劇作家の平田オリザさんは「わかりあえないことから」というコミュニケーションに関する名著を残しているのですが、いつの日か私たちは、多文化共生の社会を祝福することはできるのでしょうか。
SHARE





