2026/07/28 Tue
文化
隊員Gのセントルシア日記_92 〜Omeros〜

日本国大使館を、活動報告のために訪れました。管轄大使館のあるトリニダード・トバゴは、カリブ海の最南端に位置し、CARICOM(カリブ共同体)に所属する島国です。南アメリカ大陸にあるベネズエラが近く、動植物の生態系に関しても南米の香りを、微かに感じとることができます。例えば、鳥の鳴き声に、遠く離れたアマゾンを思い起こさせるような激しさがあるのです。人口は約140万人と、セントルシアの8倍ほど。民族構成は、アフリカ系が約35%、東インド系が約40%、残り約25%は混血などとなっています。アフリカ系が85%以上を占める、セントルシアとは大きな隔たりがあるのです。そして、スペイン、フランス、イギリスの統治を経験し、独立したトリニダード・トバゴは、今も緩やかに英連邦(コモンウェルス)に留まってはいますが、力強く共和国としての道を歩んでいます。また、変動相場制を採用していますので、アメリカ・ドルにペグづけされた固定相場のセントルシアと比べると、経済的にも独立独歩の状態なのです。
セントルシアと比べると、東インド系の人々が多数派であること、スペイン統治を経験していること、共和国体制であること、変動相場であることが、トリニダード・トバゴの主な相違点です。今回、2つのカリブ国の違いを、実際に体験することができました。結果として、大好きなセントルシアのことを、より深く理解することができ、とても喜んでいます。

さて、トリニダード・トバゴでも、8月1日は、奴隷解放記念日となっています。そして、興味深いことに、Pan African Festivalと称して、世界各地に暮らすアフリカにルーツをもつ人々の歴史・文化・誇りを祝うイベントが、7月末〜8月1日に開催されます。また、東インドにルーツをもつ人々にとっては、最初に年季契約労働者が到着した1845年5月30日はとても大切な日なのですが、Indian Arrival Dayとして、全ての国民から祝福されているのです。セントルシアの人々は、10月をクレオール文化月間、10月最後の日曜日をクレオールの日と定めて、先人から受け継いできたクレーオール文化を寿いでいます。両国の共通点を、大いに感じるところです。民族の負の歴史を乗り越え、今を幸せに生きることのできる喜びを、祖先への尊敬や感謝の気持ちに重ね合わせているのでしょうね。

私は、今年の奴隷解放記念日(8月1日)を迎えるにあたり、ノーベル文学賞を受賞したDerek Walcott氏の「Omeros」Book1の読了を目指すことにしました。人類の遺産である「Homer」による古代ギリシャの叙事詩を、セントルシアに暮らすふつうの人々を主役として、Walcott氏は描きなおしました。奴隷制度や年季契約の時代、植民地支配下での被差別の時代を乗り越えてきた民族の歴史と誇りを、見事に詠いあげた作品と言えるのです。しかし、叙事詩といえども、韻文をノン・ネイティブである私が理解するのは、とても難しいことです。何しろ、文化的な背景や、歴史的な事実に対する理解が乏しいので、隠れたコンテキストを読み切ることはできないのです。そんな折、映画「The Odyssey」が公開されることを知りました。アカデミー賞を受賞した有名な監督が「Homer」の叙事詩「オデュッセイア」を映画化した作品だったのです。私は、公開翌日の土曜日に早速鑑賞することにしました。すると、渡りに船とはこのこと、その映画の情景を思い浮かべながら、「Omeros」の詩的な表現を味わうことができるではありませんか。もちろん、完璧に理解できるわけではありません。所々ではありますが、セントルシアにおけるバナナの栽培、イグアナの生息、Helen of West Indiesという愛称、コンクの貝殻、牛飼いの人々などを、映画のシーンに重ねるようにして、想像を膨らませることができたのです。Gros IsletやPiton山など、よく知っている固有名詞が登場すると、益々臨場感は盛り上がりました。
セントルシアの国旗をデザインしたSt. Omer氏も、「黒いキリスト像」を描いて、アフリカのルーツをもつ人々の尊厳を表現しました。両氏の野心的な魂を、心の底から理解することは、異邦人の私にはできないのかも知れません。しかし、国に仕えるボランティアとして、胸が打たれる思いを共有することはできそうなのです。
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