JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_34 〜Vehicle〜

 私は、ハイウエイと言えば、間髪を入れずに、アメリカ合衆国の西海岸を縦断するインターステイト5(通称I5)を思い浮かべます。片側7車線の道路を威風堂々とアメ車が行き来する様子を初めて目の当たりにした時のことを、約40年が経過した今でも、忘れることができません。車線の数、左ハンドル、車体の大きさなど、当時の日本の状況とは違うことが多すぎて、まるで「SF映画の未来都市にいるような感覚」に陥りました。
 翻って、セントルシアの交通事情は、旧宗主国・英国の影響を受けており、日本人である私にとって、とても馴染みやすい風景となっています。まず、英国と同様、右ハンドルで左側通行になっています。結果として、日本と同じ交通ルールですので、日本車は走りやすく、需要も高いということになります。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、スバル、三菱、スズキ、ダイハツ、日野、いすゞなど、セントルシアで目にする車のほとんどが日本製なのです。しかも、中古車であることが多く、日本で乗られていた当時の自治体名や会社名のロゴがそのまま車体に残されていることもしばしばあります。さすがに「過去にタイムスリップしたような感覚」というのは大袈裟すぎますが、日本人にとっては懐かしい景色が、ここセントルシアに広がっているのです。
 そう言えば、「日本人だろ?俺の車の時計をセントルシア時刻に合わせることができるか?」と、全く見ず知らずの現地男性から声をかけられことがありました。日本でいうハイ・オーナー・カーなのですが、中古車を日本からそのまま運んできたのでしょう、操作盤などが全て日本語表記なのです。グラス・ルーツの日本代表として注文に応え、時刻を修正してあげると、満足したかと思いきや、今度は「ラジオの周波数をセントルシアの放送局に合わせることができるか?」と懇願するではありませんか。残念ながら、こちらの方は、GPS連動による自動選局がプログラムされているブラックボックスで、日本国内でしか有効ではありません。「手動では周波数を選択できない。」と答えざるを得ませんでした。1勝1敗でしたが、なんとか日聖友好の役目を果たすことができたのではないでしょうか。同じアジア人でも、チャイニーズやコリアンとは異なり、性能の優れる日本車と結び付けて、日本人をイメージしてくれるようです。なんだか、逆に得した気分になれた珍事でした。

 英国の影響を受けたと思われるものとして、もう一つラウンド・アバウト(環状交差点)の存在を挙げることができます。信号機が必要ありませんので、渋滞要因の解消に一役買っています。また、交差点への侵入速度が緩和されますので、交通事故の抑制にも貢献しています。(日本では、残念ながら、環状交差点が中々普及しませんが、従来の交差点を変更するための土地の確保がどうやら難しいようです。)  ところが、カーブにおける道路の傾斜が、車が外側に傾くような構造になっている場合もあり、側道を歩く歩行者が恐怖を感じるケースが少なくありません。おそらく降雨時の水はけを意識して設計されたのではないかと思われますが、交通弱者優先という先進理念の実践を、行政側にも、ドライバー側にも期待したいところです。また、日本では考えにくい状況ですが、歩行者の側方を通過しようとするドライバーが注意喚起のクラクションを大きく鳴らすことが常です。もしかすると、交通弱者という概念自体が存在していないのかもしれません。

 観光業を中心に発展しつつあるセントルシアでは、自家用車を所有し、豊かさを享受する国民が増えつつあるように見えます。しかし、例えば、首都カストリーズと北部グロズレーを結ぶハイウエイは朝夕、慢性的な渋滞に悩まされています。国民の豊かさに、インフラの整備が追いついていないのではないでしょうか。他の途上国に比べると、セントルシアは、水道や電気などのライフラインの整備や保守が進んでいる、と言われています。しかし、道路の整備や保守については、どうしても疑問が残ります。これ以上、車が増え続ければ、破綻してしまうことは、誰の目にも明らかなのではないでしょうか?
 日本では、淡路島がセントルシアと同程度の大きさなのですが、大動脈の神戸淡路鳴門自動車道が開通して以来、島の豊かさは一変しました。しかし、高速道路建設には時間がかかるかもしれませんので、とりあえずは、人々の移動手段のひとつとして高速船を運行する手があるかもしれませんね… いえいえ、異邦人があれこれ言っても仕方ありません。やはりここは、セントルシアの未来を生きる子ども達にアイディアを出してもらいましょう。

SHARE

最新記事一覧

JICA海外協力隊サイト関連コンテンツ

  • 協力隊が挑む世界の課題

    隊員の現地での活動をご紹介します

  • JICA 海外協力隊の人とシゴト

    現地の活動・帰国後のキャリアをご紹介します

  • 世界へはばたけ!マンガで知る青年海外協力隊

    マンガで隊員の活動をご紹介します

TOPへ