JICA海外協力隊の世界日記

セントルシア便り

隊員Gのセントルシア日記_36 〜Caribbean Identity〜

 セントルシアはカリブ共同体CARICOM(Caribbean Community)や東カリブ諸国機構OECS(Organization of East Caribbean States)に所属し、カリブ地域の経済統合や安全保障に取り組んでいます。特に、東カリブ通貨同盟において発行される共通通貨の東カリブ・ドルは、経済統合に向けた象徴的な存在であると言えるでしょう。東カリブ・ドルはUSドルに対して固定相場となっており、1USドルは、2.7東カリブ・ドルで取引されています。日本も、戦後復興の時期は、1USドルが360円に固定されていました。おかげで、安い日本製品は世界中で飛ぶように売れ、輸出産業が大いに発展して、高度経済成長へとつながっていったのです。その後は、超円安を修正する形で、変動相場制に移行したのですが、1USドルが240円だった時期に、私はアメリカを訪ねています。もう40年も前の話になりますが、今でも当時のことは忘れられません。例えば、アメリカのアイスクリームが、とにかく高いのです。そして、やたら甘いのです。経済力の差が、これほどまでに市民生活に影響を与えるとは。切実な現実を突きつけられる旅となりました。

 さて、東カリブ・ドルの固定相場は持続可能なのでしょうか。確かに、USドルにペグ付けられているので、国民の安心感はとても大きいようです。また、投資家にとっても、観光業者にとっても、通貨の信頼性は、事業を継続していく上で、欠かすことができません。そして、固定相場は、インフレの抑制にも、一役買っているのです。仮に、変動相場になった場合は、為替市場における投機のシナリオを考えると、小国にとっては耐えられないリスクが発生する可能性もあります。固定相場は、経済的・金融的に脆弱な小国にとって、安全装置のような役割を果たしているのではないでしょうか。しかし、国際通貨基金IMFは、固定制維持のためには、外貨準備や財政規律によって、国際的な信頼を保つことが欠かせない、と提言しています。そのためには、農業や漁業などの産業を盛り立て、観光業依存から脱却することも必要となってくることでしょう。事実、南米アルゼンチンでは、ペソの信認を維持できず、固定相場を放棄せざるを得なくなりました。また、変動相場制に移行した中米ジャマイカは、今も、慢性的なインフレに悩まされているのです。

 経済統合が進む中、ルシアン達は、セントルシア国民であることに誇りをもつだけでなく、カリビアンであることにも、胸を張っているように見えます。ジャズ・コンサートやスチールパン大会の会場では、司会者が「We are all Caribbean!」と、カリブ諸国からやってきた観衆も巻き込んで、会場全体の一体感を醸成しようとしていました。配属先のカレッジで演奏会を行ったミュージシャンは、隣国マルティニークから招待されたのですが、「私たちカリビアンには共通の音楽があります。」と切り出して、深みのある親近感を投げかけてくれました。

  西アフリカから奴隷として連れてこられたこと。インドから見習いとして連れてこられたこと。西欧諸国によって植民地支配されていたこと。カリビアンは皆、同じような過去を共有し、カーニバルやカリプソやレゲエなどの文化・芸術を共有し、島国という風土や、熱帯海洋性という気候を共有しています。もちろん、言語は、英語であったり、フランス語であったり、スペイン語であったり、オランダ語であったりしますので、背景となる生活文化は異なります。また、「私のルーツは西アフリカにある。」「私のルーツはインドにある。」と主張する人が出てきても、全く不思議ではありません。それでも、人々の魂の中に、カリビアン・アイデンティティーが息づいている、と私は考えているのです。

 正直、アイデンティティーという言葉を紋切り型で使うと失礼にあたるかもしれない、と今までは話題とすることをタブー視してきたところがあります。赴任から8ヶ月が経過し、任期も3分の1の地点を過ぎようとしています。今後は、アイデンティティーにまで踏み込んで、対話を重ね、ディープなセントルシアを体感したいと思います。探究成果、また日記に綴りますね。

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