JICA海外協力隊の世界日記

タイ便り

【特別編】~障害者を置き去りにしない防災活動の推進 タイ・バンコクより~

職種:防災・災害対策
配属先: アジア太平洋障害者センター(APCD)
名前:板子 博子

はじめまして。
タイ・バンコクのアジア太平洋障害者センター(APCD)にて、防災・災害対策隊員として活動をしている板子です。2023年8月から活動を開始し、今年の8月に帰国予定です。 この記事では、私が所属するアジア太平洋障害者センター(APCD)と、現在推進している「障害インクルーシブ(障害者を置き去りにしない)な防災」活動について紹介したいと思います。

【アジア太平洋障害者センター(APCD)について】
APCD(アジア太平洋障害者センター)は、2002年に日本政府とタイ政府の協力により設立された、アジア太平洋地域の障害者支援の中心となるセンターです。この地域には、世界人口の約60%が住んでおり、世界保健機関(WHO)や国連などの機関による報告では、3~4億人の障害者が生活していると推定されています。そして、障害を持つ人々は、経済や社会活動への参加の機会が制限され、社会的に弱い立場に置かれることが多いのが現状です。 APCDの特徴は、障害者が主体となり、障害者のエンパワメント(障害者自身が周囲の状況を変革する主体となれるよう支援すること)と社会のバリアフリー化(社会的障壁を取り除くこと)を進めてきた点です。「社会のなかで日々様々なバリア(障壁)に直面している障害者こそ、社会を変えていく真の主体となっていける」というメッセージは、アジア太平洋地域内の多くの障害者に力を与え、社会のバリアフリー化を推進しています。 現在、私はAPCDの地域開発部に所属しています。タイ人の同僚の多くは障害当事者であり、設立から24年を迎えた現在も、当事者主体の社会変革を基本理念に、多様な関係者に働きかけを行っています。

【「障害インクルーシブ防災」の推進】
「障害インクルーシブ防災」とは、障害者や高齢者など、支援が必要な人々を災害時に取り残さないための防災・災害対策を指します。障害がある場合、それぞれに適した防災対策や災害後に必要とされる支援が異なります。災害時に発生する被害は、社会が守りきれない弱い部分に集中しがちです。こうした実情を地域や自治体、支援団体と共有し、避難計画や防災訓練に障害当事者の視点を取り入れる必要があります。 災害に対する避難や避難所運営などが、障害者がいる前提で計画され、訓練を通して検証され、いざ災害が発生した際にもきちんと機能する。そのサイクルが回るためには、障害当事者の防災活動における積極的な関与と同時に、障害や防災に関連する社会の様々な人々が、官民を超えて協力する必要があります。 APCDでは、防災や障害に関する政府機関、障害者団体、非営利団体(NGO)など多様な関係者に対して研修や情報共有を行っています。私は、こうした研修等の企画・運営、コンテンツ作成、関係機関の調整及び情報発信やネットワーク内での情報共有への働きかけを担当しています。 障害インクルーシブ防災は、比較的新しい課題でまだまだ認知度が高い概念とは言えません。試行錯誤を重ねながら、日々、協力者を増やすために活動しています。障害のあるなしにかかわらず、共に支え合い、安心して暮らせる社会を実現するために、引き続き精一杯取り組んでいきます。

【バンコクの水辺の暮らしと共生の歴史】
私が活動する地域であるバンコクについてもご紹介します。 バンコクは、タイの首都でタイ語ではクルンテープ(天使の都)と呼ばれます。タイ中部のチャオプラヤ川下流のデルタ地帯に位置し、運河が栄えたことから、かつては「東洋のベニス」と称されることもあったそうです。 特に、チャオプラヤ川を挟んだトンブリー地区やラタナコーシン地区では、川と人々の生活が密接に結びつき、豊かな生活文化が息づいています。都市開発が急速に進む今日においても、その名残を感じることができます。 しかし、2011年にはバンコク近郊で大規模な洪水が発生したように、水との共生の歴史は闘いの歴史でもあります。そうした歴史を乗り越えてきたバンコクの水辺の暮らしに触れると、人と水の共生の在り方について改めて考えさせられます。

追記: この記事を書いていた2025年3月28日に、ミャンマー中部を震源とした地震が発生しました。震源地からおよそ1000km離れたここバンコクでもゆっくりとした大きな横揺れが発生し、首都は一時騒然としました。長周期地震動*が影響している可能性があると報じられています。地震発生時刻はAPCD事務所で業務にあたっていましたが、揺れを感じ、同僚と屋外の広場へ避難しました。高層ビルを中心に建築被害が発生、交通機関等が停止し大渋滞と帰宅困難者が発生しました。周囲の人々から、非常に強い動揺が見受けられました。このたびの地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。一日も早く、安心して過ごせる日常が戻りますようお祈りしています。地震発生から数日経過し、心痛める日々が続きますが、今できることに向かい合っていこうと思います。

*長周期地震動:大きな地震で生じる、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)が長い大きな揺れのこと。長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、地震が発生した場所から数百kmはなれたところでも大きく長く揺れることがある。高層ビルは大きく長時間揺れ続けることがある(気象庁HPより)。

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