JICA海外協力隊の世界日記

チュニジア便り

【天色日記】自分だけで頑張らなくていい

配属されて間もない頃、ある男性が車いすから別の場所へと移るとき(移乗と言います)、 私は1人で介助をする想定で相手の正面に立ちました。麻痺のある足にできるだけ体重を乗せ、自ら立ち上がろうとする身体の動きを促す介助は、機能向上に必要です。ところが同僚たちは「そこじゃない」、と相手の横に立つよう私に言いました。そして「わっしょい」と言わんばかりに4人でその人を抱え上げて移乗をしたのです。なるほど、だから車いすのブレーキが壊れていても困っていないんだ。この時だけではなく、配属先での移乗は複数人での抱え上げが定番です。

この事を母校の作業療法士の先生に話したら「どうして1人で出来るのに、大勢でやらなきゃいけないの?」と聞かれました。その時、チュニジアだったら「皆ですれば楽なのに、どうして1人でしなきゃいけないの?」と考えるのではないかなと、ふと思いました。リハビリとしては、できるだけ本人の力を活かして機能を伸ばしたいと考えます。ただ、「自分1人で出来る」ことに重きを置く考え方に、今まで感じることのなかった引っかかりを覚えました。

チュニジアではイスラム教の教えで、家族は共に暮らすことが尊ばれるそうです。子どもは長じても親と暮らし、たとえ亡くなっても家族は共に在ると同僚が話していました。日本では少人数の世帯が増え、家族の介助や介護が難しくなっています。チュニジアの「家族は共に暮らして支え合うことが大切」という考え方ならば、障がいのある人たちは日本のように、ひとりで頑張らずにすむのでしょうか。リハビリで個の力を育てるのは、ひとりで生きるためでも孤独に耐えられるようにするためでもなく、生きていて嬉しいと思ってほしいからです。

日本の病院で働いていた頃、担当させて頂いた難病の方のご家族が「まるで世界に自分たちだけみたいだった」と話してくださったことがあります。それからは人が孤独にならないように、作業療法士として何をするかを考えてきました。チュニジアにいる今、この国の人たちの孤独を遠ざける力は強みだと、私は思います。

読んでくださってありがとうございます。

Besleema , nHaarek ziin (ベスレーマ、ンハーレックジーン) 

           またお会いしましょう。あなたの一日が素晴らしいものでありますように

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