JICA海外協力隊の世界日記

ウズベキスタン便り

ナヴォイ劇場 日本人抑留者の歴史


執筆:千本木恵美子(2023年度3次隊/青少年活動)


タシケントの観光場所として、ガイドブックには絶対書かれているナヴォイ劇場。そのレンガ造りの美しい建物を見ているだけでも充分楽しめるのですが、その歴史と共に「ウズベキスタンで一番丈夫で美しい建物」ともいえる場所です。

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【ナヴォイ劇場正面】

ナヴォイ劇場は第二次世界大戦後、ソ連の捕虜(抑留者)として日本人が建設に携わりました。劇場の側面には、建設に貢献した日本人を称えるレリーフが設置されています。
1996年に起きたタシケント大地震で市内の建物が多数倒壊する中、無傷で残り、避難所として多くの人命を救ったことから、「地震が来たら日本人が作った建物に逃げろ」という言葉があります。
2024年8月、この歴史あるナヴォイ劇場で日本語とウズベク語公演が行われました。
劇は「アミノフと兵隊さん~桜の咲く頃~」

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終戦間もない旧ソ連時代、ウズベキスタンの首都タシケントで抑留された日本兵457人が
同劇場建設に従事した際、作業中の事故で大けがをしたアミノフさんを助けた日本兵との友情を描いたもので、2022年5月に国交樹立30周年を記念し東京都内で公演。 2024年8月の岸田文雄首相(当時)のウズベキスタンなど中央アジア3カ国歴訪に合わせてウズベキスタンでの再公演が決まりました。    

この劇は、現在東京外国語大学でウズベク語を教えているNodira先生のおじい様が実際に経験されたナヴォイ劇場での日本兵との交流が原作です。
ウズベキスタンと日本の友情。この背景があったから、ウズベキスタンでは親日家の人が多いのではないかと感じます。

ノディラ先生、脚本家三名刺繍さん、ピアニスト千葉海音さん、大道具笠島彩子さん、語りヴァヒド・ウミロフ(Vakhid Umirov)さん、
配役は、アミノフ役は大学院生(当時)ウバイドルロ・カユモフ(Kayumov Ubaydullo)さん、日本兵は歌舞伎役者市川福之助さん、京都外語大学留学生門井遊喜さん、青山学院大学岩澤宏忠さん、アミノフ娘役フルシダ・ヌルマトワさん(Nurmatova Xurshida)、アミノフ妻役アデリヤ・ルサリモワさん(Mursalimova Adelya)医者役イルダン・ギルムトディノフさん (Ildan gilmutdinov)、JICAボランティアメンバーや、タシケントにいる方にもご協力を呼びかけ、脚本準備、リハーサルを行いました。ウズベキスタン日本センターのバホラ先生にお願いし、センターを使用させてもらい、リハーサルは日数が限られた中でしたが、何とか準備が整いました。
宮崎県の地震が発生したため、岸田首相の訪問は急遽取りやめとなりましたが、公演は予定通り8月10日に行われました。当日は、多くの方が集まりウズベキスタンと日本の感動的な友情秘話とピアノの演奏に心を動かされました。

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【オープニング挨拶 たくさんの観客に見守られながら劇がスタート】

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【アミノフと兵隊さん劇 おじいさんが孫へ当時の様子を語り、物語が紡がれました】

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【1946年からの強制労働中に、少しずつウズベク人と日本人との交流が生まれました】

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【「さくらさくら」のアレンジ曲を弾き語りする、ピアニスト千葉海音さん】

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【タプチャンという台で食卓を囲むシーン ウズベキスタンでは今もこの風景が見られます。】

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【全体リハーサルの日数はわずか3日間。意見をすり合わせ、試行錯誤しながら上演へ】
機会を頂き、私も少しだけ舞台に立たせてもらいました。
ナヴォイ劇場の舞台から見た景色、最後に舞台から、カーテンコールの拍手を浴びながら少しだけ役者気分を味わえたことは、一生の思い出となりました。

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【ナヴォイ劇場の舞台、終わった後の記念撮影】

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【リハーサルの様子 ウズベキスタン日本センターの方々を始め、多くの方の協力を経て劇を上演することが出来ました。Katta Rahmat‼ Большое спасибо】
アミノフと兵隊さん~桜の咲く頃に~2024.08.10ウズベキスタン公演動画
https://www.youtube.com/watch?v=c9b736ym_3o
このナヴォイ劇場での公演の1年後(2025年9月)にウズベキスタンで当時の収容所(ラーゲリ)で抑留されていた方のお孫さんが、祖父の縁の地を訪ねたいとウズベキスタンへ来訪されました。唯一の手掛かりは、当時ラーゲリ(収容所)から送られてきたハガキ。当時のラーゲリの場所が今では分からないので、ウズベキスタンで謎解きが始まりました。

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【ラーゲリからの手紙】

まずは、抑留者に関する本を再度読むところから始め、「収容所」に書かれている箇所をさらい、ラーゲリ番号を確認しました。
(参考文献 ・ もう一つの抑留 ウズベキスタン日本人捕虜』 藤野達善氏著書 ・ノンフィクション小説 収容所(ラーゲリ)から来た遺書』辺見じゅん著者 映画 ・ ラーゲリより愛をこめて』2022年12月公開 監督 瀬々敬久 主演 二宮和也)
ハガキに書かれていた番号は4桁の7372。しかし、ラーゲリ番号はどうやら3桁。日本の舞鶴の引き上げ資料館、抑留者記念館にも問い合わせて貰いました。ウズベキスタンの抑留者記念館にどのように連絡しようかと思案していると、資料館館長のお孫さんとご友人の方がいて、telegramの連絡先を教えてもらえることになりました。(ウズベキスタンではtelegramを連絡ツールに使用することが多いです。)
カザフスタンの大学院に留学し中央アジア映画を研究している日本人留学生さんにラーゲリの経緯やラーゲリマップを送って頂いたり、ロシア人の友人にロシア語でラーゲリに関する検索をかけてもらったり、沢山の方々に協力して頂きました。
調査を始めて12日後、抑留者記念館を訪れ館長スルタノフSultanovaさんのお孫さんRisolatさんに詳しく説明してもらいました。学校が夏休み期間だったので駐在の日本人親子も一緒に訪れ、社会科見学のような体験が出来ました。

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【日本人抑留者記念館 スルタノフさんから運営を引き継いだ孫娘Risolatリソラットさん】

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【墓石に手を合わせました】

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【日本人墓地 墓守の方が今でもきれいに管理しています】


本当にいろんな方のご協力のお陰で、祖父の方が居た収容所は、現在のアングレン第372地区収容地区と分かりました。
2025年10月。旅行が始まり、アングレン行きの電車を待っていると。日本語を勉強しているという、高校を卒業した女の子メフリちゃんと一緒になりました。列車(寝台車)では日本語でお話しながら、歌手松田聖子さんの「あなたにあいたくて」が好きということで、みんなで歌を歌っての車中でした。

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【右から、吉田麻紀さん、和田加奈恵さん(千本木旧友)、高田祥子さん、Mexribon Jaloliddinovaさん、荒井園子さん Angren行きの電車にて】
アングレンの駅からどうやって収容所跡地へ行こうかと、地図を探していると、駅員の方が話しかけてくれ、事情を説明すると、「じゃあ送っていくよ」と車を出してくれました。アングレン収容所は現在アングレン区役所のそばにあり、収容所跡地には石碑が残されていました。ほかにも、平和を呼びかける像があり、ここでの出来事を後世に伝えていました。公園の中に日本語で書かれた記念碑をみたら、涙が込み上げてきました。こんな遠くの場所まで、私達の祖先の方がいらしたのだと思うと…心より、お疲れ様でしたと手を合わせるばかりでした。 園子さん、麻紀さんのお祖父様は第二次世界大戦後、3年間このアングレンに抑留され、強制労働に従事しました。その後無事に日本に帰国されました。その時の多くは語らなかったそうですが、お酒を飲むと嬉しそうに、「ウズベクにいたんだよ」と仰っていたそうです。その時に持ってきた銀のスプーンを、ずっとお食事の際に添えていたり、御住職でもあったお祖父様は、抑留中、ラーゲリ内で不幸があった時には、弔いのお経を唱えていたそうです。

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【麻紀さんと園子さんのおじい様はこのアングレンの地で労働に携わり、日本に帰還。数十年の時を経て、お孫さんがゆかりのこの地を訪ねることが出来ました。】

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【アングレン平和を呼びかける像】

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【アングレン歴史資料館】 アングレン市の資料館では、当時の炭鉱労働の様子など、資料館の方が説明してくれました。

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【アングレンは石炭産業中心地】

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【タシケントにある「ウズベキスタンで1940年代に生活した日本人の記録」抑留者資料館入口】
2026年2月8日、中央アジアのウズベキスタンで、私費を投じて日本人抑留者の資料館を開設したジャリル・スルタノフさんが亡くなりました。資料館は新たに孫娘が館長となり引き続き運営されます。 スルタノフ氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

もし機会がありましたら、ウズベキスタンを訪れた際には、ナヴォイ劇場や日本人抑留者資料館にぜひ足を運び、この歴史に触れて頂ければと願います。
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015049511000

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