2026/04/13 Mon
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アラカン隊員のバヌアツを行く~分け合う国で、数を教えるということ~(#7 野田順子/職種:小学校教育)

バヌアツに派遣されて、早くも一年が過ぎました。一年もいれば、英語や現地語のビスラマ語も、もう少し話せるようになっているのではないかと自分でも期待していましたが、現実はそれほど甘くはありませんでした。むしろ日本語さえスムーズに出てこないこともあり、「アラカンだから仕方がないかな」と苦笑いする日々です。
それでも、バヌアツへの愛情は少しも変わりません。毎朝、学校へ向かう道すがら、村の人たちが「Good morning, Mrs. Junko!」と声をかけてくれます。そのときに見せてくれる、あのピカピカの笑顔には、今でも胸が熱くなります。これは日本でも、これまで訪れたどの国でも味わったことのない温かさです。この瞬間のためだけでも、「バヌアツに来てよかった」と心から思えます。
さて、JICA海外協力隊としての私の活動は、算数の基礎学力の向上、音楽指導、そして日本の学校との交流授業の三本柱です。一年目はとにかく試行錯誤の連続でしたが、少しずつ活動の形が見えてきました。その中で特に強く感じているのが、算数における「数の概念」の違いです。バヌアツの子どもたちの中には、数の概念が十分に身についていない子が少なくありません。例えば、目の前にバナナが5本あっても、それを見ただけで「5」と認識することができず、一つ一つ数えて初めて5本だと分かります。そして、その「5本」と数字の「5」が結びついていないのです。
活動を始めた当初は、この状況に大きな戸惑いを感じました。どうしてこんなにも数の理解に差があるのだろうか、と考え続けました。実は私は30年以上前、インドで子どもたちに算数を教えた経験があります。そこでは、学校に通えないような貧しい子どもたちであっても、数の概念はしっかりと身についていました。だからこそ、この違いはとても印象的でした。しかし、バヌアツでの生活を通して、その理由が少しずつ見えてきました。それは、この国の自然環境と文化に深く関係しているのです。
バヌアツは、非常に豊かな自然に恵まれています。サイクロンの被害はあるものの、基本的には飢饉をほとんど経験していません。パパイヤは捨てた種から自然に育ち、マンゴーやアボカド、グレープフルーツの木は、毎年たくさんの実をつけます。主食であるイモ類も、植えれば比較的手間をかけずに収穫することができます。このような環境では、「限られたものを正確に分ける」という必要性があまりありません。例えば、食べ物を分けるとき、日本や他の国では人数分をきちんと数えて平等に分けることが一般的ですが、ここでは見た目で大体に分けても、誰も不満を言いません。個数に対するこだわりが、そもそも強くないのです。

そして、もう一つ特徴的なのが「シェアの文化」です。学校で活動していると、先生方がよく食べ物を分けてくれます。決して十分な量を持っているわけではないのに、その場に私がいれば、必ず分けてくれます。時には「あーん」と口に運んでくれることさえあります。この文化の中では、「正確に分けること」よりも、「一緒に分け合うこと」そのものが大切にされているのだと感じます。
こうした経験を通して、私は大切なことに気づきました。算数教育とは、単に計算ができるようになることではなく、その背景にある生活や文化と深く結びついているということです。数を正確に扱う力は、もちろん大切です。しかし同時に、バヌアツの人々が大切にしている「分け合う心」や「人とのつながり」も、同じくらい価値のあるものだと思います。
これからの私の活動では、日本の算数教育の良さを一方的に伝えるのではなく、バヌアツの文化や価値観を尊重しながら、子どもたちが無理なく数の概念を身につけられるような指導を目指していきたいと考えています。そして、子どもたちと共に学びながら、私自身もこの国の豊かさを、さらに深く理解していきたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!次回もお楽しみに!
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