2026/07/13 Mon
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バヌアツ便り~小さな日々が繋げたガイドライン~

南太平洋の島国バヌアツ共和国で栄養士として活動しています。冨岡愛子です。
バヌアツの国土は新潟県とほぼ同じくらいで、人口は30万人程度。そんな小さな国の中で、私の配属先は更に離島のサント島、Northern Provincial Hospitalです。
私の主な活動は、患者さんへの栄養指導や病院給食の改善、医療従事者への研修を通して、病院全体の栄養管理体制を強化することやNCD(非感染性疾患)クリニックで外来患者に栄養指導をしたり教材を作ったりすることです。また、病院だけでなく、学校での栄養教育や地域での健康啓発活動にも取り組んできました。
<活動について> バヌアツ便り~病院食の改善~ | バヌアツ便り(バヌアツ支所) | JICA海外協力隊の世界日記
派遣前私は、「海外協力隊として何か大きな成果を残さなければ」という思いがありました。しかし、実際に現場で活動を始めると、毎日が精一杯でした。
言葉や文化の違いはもちろん、限られた人員や物資の中で活動を進める毎日。日本では当たり前にできていたことが、そのままでは通用しない場面も多くありました。
私には大きなことなどできなくて、手の届く範囲の人たちと向き合い、一緒に日々を積み重ねていく。そんな毎日でした。朝は病棟へ行って医師や看護師と相談しながら患者さんの食事内容を見直し、その後はキッチンに行って特別食を自分で作る。その積み重ねのなかで医師から意見を求められるようになり、キッチンスタッフは自分で特別食を盛り付けられるようになっていきました。
そうして派遣から1年4か月ほど経った頃、その日々の活動が思いがけない形で次の仕事へとつながります。
後輩隊員が臨床栄養部門の責任者と共に私の活動を見学に来てくれたのです。そして私の日々をバヌアツ臨床栄養士の標準作業手順(SOP)としてまとめてみる気はないかと提案してくれました。そして、保健省が進めていた病院栄養ガイドラインの改訂・作成に携わる機会をいただきました。
ガイドラインは、それまでバヌアツ初の栄養士で現在はWHOに所属する栄養士と、保健省の臨床栄養部門責任者を中心に作成が進められていました。そのチームに加わるうえで私が最も大切にしていた軸は「この国で本当に使えるガイドラインをつくること。」でした。国のガイドラインである以上、国際的なエビデンスに基づくことは欠かせません。しかし、その内容をそのまま持ち込んでも、現場で実践できなければ意味がありません。
例えば、国際的なガイドラインでは胆嚢炎に対する第一選択は手術です。しかし、バヌアツでは設備や人材の制約から、すべての患者さんが手術を受けられるわけではありません。推奨される薬剤が国内にないことも少なくありません。
そのような現実を目の当たりにしてきたからこそ、「理想を書くだけではなく、今のバヌアツで実践できる内容にすること」を何より重視しました。
現地の臨床栄養士や医師と何度も議論を重ね、毎週のようにミーティングを開き、一つひとつ内容を見直していきました。保健省から正式に改訂を依頼されてから約7か月、ガイドラインは無事に完成し全国へ向けて発行されました。
しかし、ガイドラインは完成しただけでは現場は変わりません。本棚に並ぶだけの一冊にしないため、臨床栄養士や病院のキッチントップシェフを対象とした座学研修を実施し、その後は私の勤務する病院で実務研修も行いました。実際の病棟やキッチンでは「どう運用するのか」まで一緒に確認できたことは、この活動の中でも特に印象に残っています。

もちろん、このガイドラインは私一人で作ったものではありません。後輩隊員をはじめ、保健省、現地の臨床栄養士、病院スタッフ、JICA支所、そして活動を支えてくれた多くの方々と一緒に作り上げたものです。異なる立場の人たちが「より良い栄養管理を実現したい」という同じ目標に向かって意見を交わした時間そのものが、このガイドラインの価値なのだと思います。

※バヌアツ初の栄養士(右下)長年第一線で臨床の栄養を支えてきた責任者(左下)とJOCV栄養士
派遣前の私は、「海外協力隊として何か大きな成果を残さなければ」と考えていました。
ですが今回の経験を通して、成果は最初から目指してつくるものではなく、目の前の一人、一日の積み重ねの先にあるものなのだと学びました。
毎日の病棟回診や患者さんとの対話、一食一食の病院食の改善。一見すると小さな積み重ねですが、その積み重ねが信頼につながり、やがて国全体の仕組みづくりへと発展することもあります。
これから協力隊への参加を考えている方や、今まさに現地で活動している隊員の皆さんの中にも、「自分は役に立てているのだろうか」と悩む瞬間があるかもしれません。
そんな時は、大きな成果を焦って求めなくても大丈夫です。
目の前の一人と向き合うこと、一つの活動を丁寧に積み重ねること、その積み重ねは必ず誰かにつながり、やがて大きな変化を生み出します。海外協力隊の活動に、決まった正解はありません。それぞれの国、それぞれの地域に、それぞれの課題があります。だからこそ、自分らしさや専門性を生かしながら、目の前の人と一緒に歩んでいくことが大切なのだと思います。
これからJICA海外協力隊に参加する皆さんの一歩も、誰かの未来につながることを願っています。

※学生インターンや1年目(研修生)栄養士達も加わり、年々バヌアツの栄養士が育成されています。
冨岡愛子(2023年度4次隊 /栄養士)
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