JICA海外協力隊の世界日記

バヌアツ便り

バヌアツの神秘:カバについて(#12 高橋利幸/職種:編集)

ついに――ついに、このテーマに触れるときが来ました。いつかは紹介しなければならない。果たして自分には説明できるか、その資格があるのか。しかし、バヌアツにいるからには避けては通れない道。

それは、「カバ」です。

この地で暮らす以上、いつかはこの神秘な飲み物と真剣に向き合わねばなりません。それはもはや、ひとつの“通過儀礼”です。「バヌアツとはカバ」「カバとはバヌアツ」。この言葉、決して大げさではありません。

私が初めてカバを飲み、「マロー!(乾杯)」と掛け声を上げたあの日、ようやくこの国に受け入れられたと心から実感しました。

カバは、バヌアツの誇りであり、絆であり、そして何より伝統です。おお、バヌアツよ。ああ、カバよ。あなたはなんと静寂で、深い味わいをもった飲み物なのでしょうか。あなたのことを語っていると、自分が何者かさえ分からなくなってきます。

えっ、 何が何だか混乱してきた?大丈夫です。私もです。カバを語るとは、そういうことなのです。

カバとは何か?改めて真面目に説明します。カバは、コショウ科の植物「カバ(kava)」の根を乾燥させて砕き、水で抽出して飲む、太平洋諸島の伝統的な飲み物です。バヌアツ以外でも愛好家が多く、例えばオーストラリア等への輸出も行われています。

その見た目は、まさに泥水。色はグレーで、味は、あえて言葉にするなら「うがい薬と土を混ぜて薄めたような味」。苦いような、渋いような、そして口の中が一瞬でしびれる、そんな独特の風味をもっています。

夕方になると「カババー(ナカマル)」と呼ばれる屋外の集会所に人々が集い、静かに語り合いながら村ではカバを回し飲みします。カバはアルコールを含まないので、一般的な酔いとは少し違います。しかしながら、リラックス効果があり、飲んだあとに体が緩んだり、コショウ科の植物だけあって口が少しピリピリする感じがします。これが、カバ特有の「酔い」のような感覚と捉えられます。

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この2枚の写真は、それぞれある日の職場での一幕。セレモニーのあと、スタッフみんなでカバを飲みました。普段は飲酒禁止のスタジアムですが、このときばかりは「カバならOK」という会長の特別許可が出ました。アルコールは禁止。しかしカバは許される。まさに「別格」なのです。

カバには、単なる飲み物以上の意味があります。結婚式や葬儀、訪問者の歓迎、正式な会合の前後など、さまざまな場面で登場するカバは、社会的・儀式的な役割を担っています。信頼や尊敬、そして時間を共有するという、深い文化的意味を持つ行為でもあります。

一気に飲み干し、そのあとに水で口をゆすぐのが作法です。飲むときに使う器は「シェル(Shell)」と呼ばれ、もともとはココナッツの殻を半分に割って器にしたもの。今でも名残で「1シェル飲んだ」は、コップ1杯分を意味します。強者になると、2シェル、それ以上を一気に飲み干します。

飲み終わると、体がふわっと軽くなるというか、力が抜けるような脱力感が出てきます。思考はゆっくりになり、心が落ち着き、静かになります。そして、まるで寝る前のようなまどろみの状態に包まれていきます。

お待たせしました。こちらが、私の「ファースト・カバ」を収めた貴重な映像です。今説明したすべてが、この中に詰まっています。これを見れば、もう逃げることはできません。心してご覧ください。これが、カバです。

バヌアツに来たら、ぜひ一度カバを体験してみてください。一口で世界が変わる、そんな不思議な飲み物です。

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