2024/10/23 Wed
観光教育を通じた新たな価値創造への挑戦
みなさん、はじめまして。2023年度1次隊、観光隊員の多田慎吾です。
昨年の7月より、ジンバブエ東部に位置するムタレ技術工科学校(一般にポリテクニックと呼ばれています)での活動を行っています。観光ホスピタリティ学部の講師として、カウンターパートと協力し、学生及び地域コミュニティを対象にした観光セクターの発展に向けた人材育成に取り組んでいます。
今回は観光教育に取り組む観光隊員の活動についてお伝えできればと思います。
ジンバブエの成長戦略の一環として位置づけられている観光分野は、社会経済に対する恩恵が大きいと考えられており、現在、国内各地の地域コミュニティにおいても、その期待が一層高まっています。
それら地域の社会的要請に応えるため、配属先では、指導法、研究、コミュニティサービス、価値創造、産業化を重視した教育政策に基づく観光教育を実践しています。
その際の重要なテーマは「伝統」です。ジンバブエの教育方針における「革新的な発展」には伝統的な有形・無形資源の要素が欠かせないためです。
しかし、これらの地域の伝統に基づく新たな価値創造を促進する観光教育の実現には、これまでの活動を通じて依然として多くの課題が存在することが明らかになりました。
その背景には、配属先における教育環境の不足、伝統を重視した実践的な授業や実習の欠如、学生の職業アイデンティティの不足などが関連していることが明らかになっています。
これらの課題を解決するために、配属先の学習環境の改善、伝統を意識した新たな価値を創出する実践的な授業や実習の実施、学生による情報発信の機会を創出する活動に取り組んでいます。
今回は、上述2番目の活動、「実践的な授業や実習の実施」において「伝統」をどのように取り入れているかについて、その一部を紹介いたします。
カウンターパートと一緒に担当している5つの授業科目(観光マーケティング、旅行業概論、外食産業運営、カスタマー・ケア、料飲サービス)では、地域資源の発掘方法や顧客ニーズの調査手法、地域資源を活用したツアープランニング、オリジナルメニューの作成、異文化体験、地域の芸能や文化を体験するサービスの提供、地域資源と異文化を融合させた観光商品開発の方法などを取り入れた授業や実習の実施、教材の開発を実践しています(各学期に2、3科目、1週間に平均で7~8講義(各2時間×講義数)を担当しています)。
写真上:学生が観光展示会にてジンバブエ米からつくった日本酒のコンセプトを説明
またカウンターパートとの共同企画では、「新たな価値創造」や「地域連携」「新たな知識創造」を意識した授業・実習も実施しています。具体的には、日本大使館の公邸料理人や大使、地方政府、観光局などを招いた特別授業を通じて日本食文化の紹介や料理教室を行っています。また、観光ホスピタリティ分野におけるイノベーションの考え方を実践する授業や実習として、ジンバブエ米を用いた日本酒づくりにも取り組んでいます。さらに、ジンバブエの観光開発に関連する課題を踏まえた観光イノベーションの考え方や実践方法を整理したガイドブック教材を作成し、地域の観光学部を持つ他校や政府、民間団体、ホテル、旅行会社などの観光関係者と知見を共有することで、新たな知識創造と地域関係者の共通認識を高める活動も行っています。
写真上:学生がつくり方を学び調理した巻きずしを試食
その他、毎週1回、学生や地域の若者を対象に新しい価値観やリーダーシップの醸成を目的とする剣道教室を開催しています。また、クルーズ業界に関する就職セミナーや就職指導サポート、日本語教室も学生のニーズに応じて不定期に行っています。
以上、活動の一部をご紹介いたしました。このように幅広い活動アプローチを通じて、配属先との対話を重ね、伝統のコンセプトへの理解を深めつつ、意識のすり合わせを図ることで、学生をはじめカウンターパート、地域関係者の地域発展への原動力としての意識を育むことができればと考えています。
これまでの活動を振り返れば、協力関係を築くための重要な要素の一つは、信頼の醸成にあるのかもしれません。
隊員活動は、各分野の共有知識が内在化される長期的なプロセスですので、継続的な対話と人間関係づくりは欠かせません。協力隊活動は、現場での対話を通じてコミュニケーションを図ることができるという大きな利点があります。この利点を活かし、現地社会の理解を深め、人々とのコミュニケーションを大切にしながら、相互作用のなかで信頼関係を築くことが活動を円滑に進めるための成功の鍵だと感じています。その点に改めて留意しつつ、配属先や地域と一体となり、地域の長期的な発展とは何かを追求していきたいと思います。
写真上:学生と地域住民を対象にした剣道教室
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