JICA海外協力隊の世界日記

ラオスの暮らしを知りたい

うちわの背後に見えるもの

 帰国してもうすぐ4か月。ようやく協力隊活動の振り返りを書き始める。振り返って気づいたことは、Vangvieng Posa HandicraftVPH)が作るうちわの「つなぐ力」。

 最初に頭に浮かんだのはうちわ作りワークショップのこと。ワークショップが始まるとラオス人・日本人関係なく、みんながうちわとうちわを作る人々の周りに集まってくる。作っている人の手元をのぞき込んだり、実際にうちわを作ってみたり、それを見ながらおしゃべりしたり、うちわを中心に輪が広まっていく。なんだかわちゃわちゃ楽しそうに団らんする彼・彼女たちの姿を思い出すと、手仕事の価値を感じずにはいられなかった。この空間を作り出せる手仕事は、現金収入以外にもたくさんの恩恵をもたらしている。

 もちろんうちわが売れることも大切。需要で引っ張らないとこんな光景もいつかは消えてしまう。でも手仕事を通して生まれるこのつながりにも価値を見出したいと思った。その部分も大切にしていかないと手仕事は続かなくなる。

 手仕事に勤しむ人々がどんな気持ちで手工芸品に向き合っているかも、つながりを生むか否かに大きく影響していると思う。私の当時のカウンターパート(CP)は、私から見てうちわ作りにかなりの親しみや愛着を持っていた。うちわ作りワークショップの開催を一度も否定したことがないし、ワークショップ中はずっと微笑みながら参加者にうちわを紹介していた。私はその姿を見ていて、親しみや愛着がある、あるいは得意なことを土台に活動していくことがやる気を促進するのだと学んだ。そしてそのやる気はつながりを促進する。

 思い出補正はあるかもしれない。でも実際にこの光景をこの目で見たのは確か。参加した方に聞けば同意してくれると私は信じている。

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 次に頭に浮かんだのはミニうちわのこと。特にかわいらしいやぎ柄のうちわは親しみを持って迎えられた。在ラオス日本大使館の大使に購入していただいたり、ラオス人の社会起業家が開くハンディクラフト・ショップに飾ってもらったり、もともと丸亀うちわのプロジェクトに関わっていた方の手に渡ったり、うちわの中では大活躍している。

 やぎ柄のうちわはすでに日本にも上陸している。今年の5月に東京都の代々木公園で開催された「ラオスフェスティバル2023」では、「ラオスOV会」のブースで数本販売した。

 そのとき印象に残ったエピソードを一つ。ある女性がやぎ柄のうちわに興味をもってくれた。私は「小さいからうちわとしての機能はないかもしれない」と頭を掻いた。でも購入してくれた女性は、ぜんぜん扇げるしコンパクトで良いし何より(デザインとサイズが)かわいい、と微笑みながら彼女の顔をうちわで扇いだ。確かにコンパクトでバッグに入るし、それなりに風を感じられるし、何よりも愛嬌がある。おかげでこのうちわにも需要があることを知れた。

 このやぎ柄は隊次の異なる隊員がデザインしてくれたもの。とてもありがたい。そのデザインを見せながらCPに、新しい柄のうちわを作らないか、と聞いてみるとすぐに「できる」と答えてくれた。そしてやぎ柄のうちわ作りが始まることになった。

 その後、私はCPの自宅まで押し掛け、やぎ柄のうちわ作りに励む彼の姿を写真と動画で記録した。近くでうちわ作りを見ていると発見がたくさん。彼はうちわを楽しそうに作っている。いやいやではなく、うれしそうに作っている。しかも妻や子どもたちと一緒に笑いながら作っている。ここに私は手仕事の創造性を感じた。うちわを作りながら「とうしゅうさいしゃらく(東洲斎写楽)」とぎこちない日本語でほくそ笑むCPの横顔は今も忘れられない。そんな経験から私は、うちわ自体だけでなく作り手の姿や気持ちも皆さんに知ってほしいと思った。それを伝えることは、活動が終わっても私の一つの義務だと考えている。

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 需要の話に戻ると現実はなかなか厳しい。広告用うちわの発注がときどき入るくらい。ラオスでうちわ産業が生まれるのはかなり厳しそう。でもCPは納期までに適切な量を確実に作ることができるし、うちわの仕事に親しみや愛着を感じている。そのため需要を見つける・つくることができれば、うちわを拡販できる素地もあるんじゃないかと思う。

 私は今後、かつてラオスに丸亀うちわの作り方を教えた職人に会いに行く予定。そしてラオスから持ち帰ってきたうちわを代わりに手渡す。その時はテレビ電話でVPHメンバーと職人をつなげたい。

 まとめるとやっぱり、丸亀うちわは人と人をつないでいる。そして人と人が交わる場所を作っている。丸亀うちわだけでなく他の手仕事も同じような役割を果たしていると思う。もし皆さんが手工芸品を使っていたり、地元に作っている人がいたりするなら、それらの背後にも目を向けてみてほしい。

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