JICA海外協力隊の世界日記

太陽と海と雨の島

教材が子供に与える影響

 上の写真はミクロネシア連邦のポンペイ島で、数の基本概念を身につけるために私が作成した教材の一部です。このワークシートを使って小学校3年生に授業をしていた時に、このワークシートが抱えている重大な欠陥の存在に気が付きました。
 ミクロネシア連邦のポンペイ島の子供たちは分数が苦手です。ポンペイ島で活動を始めたときに様々な人々から、子供たちの分数概念の習得を依頼されました。ポンペイの子供たちにとってどのような方法がよいかを探すために、様々な学校で授業を見学させていただいていた時、あることに気が付きました。それは、多くの子供たちが、掛け算の問題を解くために指を使って足し算によってその答えを求めていたことと、指を数えるときに、それがどんな数であっても、必ず一つずつ数え上げていかなければ、その数を確認することが出来ない子供たちが多く存在していることでした。例えば、日本人の多くは手の形がパー(五本指がすべて開いている状態)であるとき、数えなくてもそれは5を意味していることが理解できていると思いますが、不思議なことにポンペイ島の子供たちはパーの手を見ても、必ず指を一つずつ数えて5本あることを確認していました。このことと分数は一見関係ないように思えますが、通分や約分を理解するためには足し算や掛け算の理解は欠かせません。つまり、分数を理解するためには、まずは掛け算や足し算のなどの四則演算の理解と習得を目指さなければならないこと、さらに基礎概念である、数の理解に向けて、具体物の数とその数詞を結びつける練習を授業に取り入れる必要があると感じました。

 そこで、数の基本概念の習得を目指して小学校1年生用のワークブックを作ってみました。現在はある3年生の算数の授業の10分間だけをお借りして、試験的にワークブックを使った授業を行い、その効果の測定と内容の改善を目指しています。その中でとても勉強になったことがあったので紹介させていただきます。ある日、9の合成と分解についての授業をしてみました。その導入として、単純に黒丸と白丸の数を数えるだけの基本的なワークシートを用いてみました。それほど難しいものではないので、多くの子供が全問正解できるであろうと予想していましたが、全問正解した子供は23名中5名だけでした。さらにその間違え方も見当違いのものが多く、算数を得意にしている生徒であっても正しく数え上げることが出来ていませんでした。採点し終えたそのワークシートを見ながら、その不思議な結果についてその原因を探っていた時に、そのワークシートが持つ重大な欠陥の存在に気が付きました。それは、解答欄が左側にあるために、記入の際に右手が黒丸と白丸を覆ってしまい、確認しながら記入できない状態になってしまっていることでした。

 その仮説を検証するために、翌日、まったく同じ問題で、左右を入れ替えただけのワークシートで子供たちに再び挑戦してもらうことにしました。すると23名中12名の子供が全問正解することが出来、それ以外の子供も数問間違えてしまっただけでほぼ満点の生徒がほとんどでした。教材のわずかな配置の違いでこれほどまでに劇的な変化があるとは驚きでした。ポンペイの子供たちにとってより良い教材に向けての一歩であるとともに、私にとっても、教材の内容が生徒の理解に及ぼす影響の大きさを体験できる貴重な経験となりました。この教材は私のウェブサイトにアップロードしてありますので、興味ある方はご覧ください。

https://sites.google.com/view/mathematics-micronesia/home

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