JICA海外協力隊の世界日記

デリー下町生活

アンベードカルの後継者、佐々井秀麗!

 アンベードカルは仏教に改宗して2カ月後に亡くなってしまったので、インドの仏教徒たちは置き去りにされました。しかし、その12年後に彼のあとを引き継いでインドの仏教徒を増やしていったのが、なんと日本人僧の、佐々井秀麗です。

 実は、今回の旅は佐々井さんに会うための旅なのです
。日本には南天会という佐々井さんを支援する団体があります。佐々井さんに会いたいとメールを送ったところ、私が行くときナグプールにいることが分かりました。なんとかお会いしたいと思って旅に出ましたが、それについては次回以降報告したいと思います。

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 それでは、佐々井秀麗について紹介します。佐々井は1935年岡山県に生まれました。読書好きで勉強のできる子どもだったそうですが、中学2年生の時に山から落ちて頭を打ち、その後高熱が続いて1年間学校を休みます。これが人生の最初の挫折になりました。

 その後元気になりましたが、何をやってもうまくいかず、東京で丁稚奉公をしたり、故郷に戻ったりの繰り返し。心に平穏を得ようと、あらゆる宗教書を読み漁ったそうです。18歳の時には恋愛問題がこじれて船から飛び降りようとし、24歳の時には思うようにいかない人生に途方に暮れて、「仏にすがろう」と僧侶を目指しますが、学歴を理由に各地で門前払いされて失望し、大菩薩峠で自殺未遂をします。

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 その後、高尾山薬王院で素晴らしい師匠に会い、そこで得度(僧になる)し、師匠の勧めでタイに留学します。ところが、タイでも問題を起こします。中国人女性、タイ人女性と立て続けに恋仲になったのです。それで、タイから逃げるようにインドに向かいました。

 インドのラージギルにある日本山妙法寺で修行を再開したところ、ある満月の夜、龍樹と名乗る人物がこつ然と現れ、「南天龍宮城へ行け」と佐々井に告げたそうです。龍樹とは大乗仏教の創始者の名前で、運命的なものを感じた佐々井は、ヒンドゥー語で龍宮城にあたるナグプールに向かいます。
 
 ナグプールに行ったものの、最初アンベードカルのことは知りませんでした。太鼓をたたき読経しながら街を歩き、街の人の仕事を手伝いました。さらに、自分の存在を世に知らしめ覚悟を示すために、命懸けの断食を行いました。

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 1968年に8日間、70年に15日間の断食断水を実行します。文字通り飲まず食わずの荒行で、死の危険がありました。めちゃくちゃな行動ですが、佐々井は死にそうになりながらもこれをやり遂げました。この極限の荒行は世間の耳目を引き、佐々井は民衆(ダリット)の尊敬を集めました。

 佐々井はナグプールで赤ん坊の命名や結婚式、葬式などに呼ばれるようになりました。他の僧が200~300ルピーの礼金を求めるのに対して、佐々井が何も求めずもらった若干の礼金も仏教の運動のために使うのを見て、民衆はますます佐々井を信用するようになっていきました。

 しかし、佐々井はビザを更新せずにインドに滞在していたため、1987年に逮捕されてしまいます。日本に強制送還され二度とインドに戻れないという危機感の中で立ち上がったのが、ナグプールの民衆です。佐々井へのインド国籍授与を訴える署名を1カ月で60万人分も集め、デリーの首相官邸に提出しました。その結果、当時のラジヴ・ガンディー首相は佐々井に「アーリア・ナーガールジュナ(聖龍樹)」というインド名を与え、国籍を付与しました。

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 1992年には、ブッダガヤにある仏教最大の聖地でありながら今もヒンズー教徒の支配下にある大菩薩寺を仏教徒の手に取り戻すために、信徒を組織して5000キロメートルを練り歩く抗議の行進を行いました。佐々井が始めた大菩薩寺の奪還闘争は、大規模デモ行動、法廷闘争などを行い、今も続けられています。

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もともと不可触民といわれていた人たちは、アンベードカルが戦って戦って、少しずつ地位を回復してきた。仏教には不殺生戒があるけども、戦わなければ仏教徒社会がなくなって、もとの不可触民に戻されてしまう恐れがある。仏教徒が戦わなければ人々は平等にならない。だから平等になるまで戦うんだ。」アンベードカルの後継者、佐々井は不屈の人です。インドでこんなすごい日本人がいたとは本当に驚きです。間違いなく偉人だと思います。

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