2025/05/27 Tue
映画 歴史
映画Guru Nanak Jahazと駒形丸事件


最近、「Guru Nanak Jahaz」という映画を観ました。史実に基づいて作られた映画なのだそうですが、私はその事件について全く知らなかったので、紹介したいと思います。
駒形丸事件とは、1914年インドからカナダへの移民を乗せた日本船駒形丸が、カナダでの入国を拒否されインド(カルカッタ)に戻ることを余儀なくされた事件のことです。
当時のカナダは、ヨーロッパからの移民を多く受けいれる一方、アジア系移民を防ぐことを目的として1907年にアジア系移民の権利をはく奪する法律を制定していました。
そんな中、1914年4月にインド人376人を乗せた船が、香港、横浜を経由してカナダのバンクーバーに到着します。乗客は全員インド人で、そのうちの9割がスィク教徒でした。
この日本船は、グルディット・シン(前列左)というスィク教徒の実業家が手配しました。彼は「人の視野は旅行によって広がり、自由な国の市民との接触は、インド人の心に独立の精神を注ぎ、自由への憧れを育むでしょう。」と言っていたそうです。この人もフリーダム・ファイターだったのでしょう。
彼は、カナダの政治状況を知ったうえで、インドからカナダへの移民の門戸を開くことを期待して私財を投じて日本船をチャーターしました。しかし、その期待とは裏腹に、英国臣民として合法的な地位にもかかわらず、非ヨーロッパ系移民の入国を防ぐことを目的としたカナダの排他的な移民政策により、乗客は下船を禁じられました。
駒形丸(左奥)は、停泊を命じられ、2ヶ月間カナダ政府から水も食料も与えられないまま、インドへの帰国を余儀なくされました。9月にカルカッタに到着すると、イギリスは、駒形丸の乗客を危険な政治的扇動者と見なし、グルディット・シンらを逮捕しようとしました。そこで暴動がおこり、発砲が起き、乗客の一部が死亡する事件となりました。
カナダといえば今でも移民する人が多い多民族国家です。もともとはイヌイットなどの先住民の国だったのですが、そこにヨーロッパからの移民、中国やインドなどアジアからの移民がやってきて、アジアからの移民は差別されました。
石をぶつけられるインド人(当時の新聞)
中でも、スィク教徒に対する偏見や差別は多かったらしいです。スィク教徒は、ターバン(パッグ)と髭なので、目立つからなのでしょうか。なぜターバンを巻くのか調べてみたら、スィク教徒は髪を切ることを禁じられているので、伸ばした髪を保護するためなのだそうです。
彼らパンジャブ州のスィク教徒は世界中に移民していて、ターバンと言えばインド人みたいになっています。実際、インドではスィク教徒じゃなくてもターバンを巻いている人が結構いますが、下の写真でスィク教徒は一番左。後は巻き方が違っていて、イスラム教徒やヒンドゥー教徒のものです。
さて、駒形丸事件の後、カナダのスィク教徒はどうなったのでしょう。調べてみたら、ウィキペディアには「カナダの反シーク教徒感情」という項目があり、カナダの一部の白人からずっと攻撃されているのだそうです。嫌がらせ、グルドワーラーへの悪質な落書き、暴力や殺人事件も発生しています。
それが背景にあるのでしょう。2008年に、カナダのハーパー首相がスィク教徒の祭りで、駒形丸事件について謝罪した時、スィク教徒のコミュニティはそれに満足せず、議会での謝罪を要求しました。「謝罪は公の記録に残されるべきだ。将来の世代がその記録を持つことが重要だ。」と主張したそうです。
2016年トルドー首相は、下院議会で駒形丸事件について公式に「全面的な謝罪」を行いました。ここには、スィク教徒の、駒形丸事件だけでなく、自分たちに対する偏見や差別を無くしてほしいという強い願いが現れているように思います。
スィク教徒には、守るべき3つの信念があるそうです。それは、「生計を立てるために、正当な手段による正直な労働をする」「神様へのお祈りを一生懸命行う」「分かち合いの精神を持つ」です。スィク教徒は正々堂々としていて素晴らしいと思います。日本にもスィク教徒がいるし、グルドワーラーもあります。帰国したら、ぜひ行ってみたいと思います。
SHARE