JICA海外協力隊の世界日記

デリー下町生活

バラタナティアムの素晴らしさ

 インディア・インターナショナル・センターで、World Dance Dayという催し物があり、インドの古典舞踊についての講演やワークショップ、ダンスの演技などが2日間に渡って行われました。私は夕方から行われるヤング・ダンサーズ・フェスティバルを観に行きました。

 一日目にバラタナティアムとカタック、二日目にクチプディとオディッシーが行われました。一日目のバラタナティアムが本当に素晴らしかったので、書いておこうと思います。若い女性のダンサーで、これまで見た中で最高の踊りでした。

 バラタナティアムはタミルナードゥ―州を発祥とするインドの古典舞踊で、紀元前1000年頃からヒンドゥー教寺院の儀式で行われていた巫女による奉納舞踊だったそうです。寺院で舞踊が行われていたのは、シヴァやクリシュナという神々が踊りが好きだったことと関係があるのでしょうか。

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 バラタナティアムは、女性のソロの踊りが多いようです。足首に鈴をたくさんつけてステップを踏みながら、体や腕、指先、顔や目の動きでエネルギッシュに感情や物事を表現します。その舞踊技術や、顔の表情、体や手の動きなどの表現力は本当に素晴らしいです。大胆さと繊細さ、完璧な芸術性を感じさせてくれます。とにかく洗練されているのです。

 バラタナティアムは、生演奏付きで踊られることが多いです。演奏は、ヴォーカル、ヴァイオリン、フルート、打楽器(ムリダンガム)などがあります。音楽は ラーガと呼ばれる旋律型とターラと呼ばれるリズム周期に基づいているのだそうです。

 伴奏をリードする人が小型のシンバルを鳴らしながら、口三味線のように複雑なリズムを唱えると、踊りのテンポが上がります。体の動きが大きく、ステップが速くなり、とても見ごたえがあります。私がバラタナティアムを素晴らしいと思うのはこの瞬間です。

 ステージのバラタナティアムのダンサーはまるで女神のように神々しく見えます。観客に見せるために踊るのではなく、もしかしたら、ダンサーは踊りながら神に近づくのかもしれません。そんなふうに思わせてくれます。

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 後日、ハビタット・センターでバラタナティアムの男性のソロが上演されたので、観に行きました。その舞踊は女性に比べて力強く、速くて、跳躍力がありました。確かに見ごたえがありましたが、私は、女性ダンサーのしなやかさ、表情や身体全体から感じる表現力の方が勝っているのではないかと感じました。

 今ではたくさん演じられているインド舞踊ですが、19世紀にイギリスの植民地支配を受けたときには、嘲笑されたり冷遇されたりし、インドの古典舞踊は衰退しました。

 キリスト教宣教師と英国高官は、インド北部カタックとインド南部バラタナティヤムの踊り娘を「娼婦で、低劣で卑猥な文化で、偶像や司祭への奴隷」とみなし、1910年マドラス管区では、ヒンドゥー教寺院でバラタナティヤムを踊ることを禁止しました。

 それに対して「なぜ娼婦がバラタナティヤムのために何年もの学習と訓練を必要とするのか、バラタナティヤムを抹殺することで社会悪を終わらせることができるのか」と抗議して、懲役刑に処せられたインド人がいたそうです。

 結局、バラタナティヤムはヒンドゥー教寺院外で生き続け、独立後はバラタナティヤムの歴史やダンスの精神的表現部分への関心が高まって、インドで最も人気のある古典舞踊になりました。

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 踊りが終わった後、主催者側がダンサーや演奏者に感謝の布を贈っているところ。その際、ダンサーは自分のグル(師匠)の足に頭を付けて敬意を表していました。弟子はグルから知識や技術だけでなく、舞踊に対する態度、人生観をも学ぶのだといいます。

 そして、弟子たちはグルの身の回りのお世話もするのだと何かの本で読みました。全人教育のようなものなのでしょう。ダンサーが紹介されるとき、グルはだれだれだと必ずアナウンスがありますから、今もそういう伝統が生きているのではないかと思います。グルを神様のように仰ぎながら舞踊を学ぶのでしょうか。

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 ヤング・ダンサーズ・フェスティバルは大勢の人が集まりました。満席で座りきれず、通路にもたくさんの人が座っていました。だからとてもいい雰囲気の中で観ることができました。日本にいるとき何回かインド舞踊を観ましたが、やはりインドで観る方が何倍も素晴らしいです。インドに来れて本当に良かったです。


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