JICA海外協力隊の世界日記

デリー下町生活

映画「スリカント」

 暑い日が続きますが体調がいいので、久しぶりに映画を観てきました。インドの盲人実業家スリカント・ボラを描いた「Srikanth」です。予告編を見て、ぜひ観たいと思っていました。

 実は私は新潟で盲学校に勤めていたことがあります。そのとき、点字や白杖の使い方、盲人の誘導の仕方を教わりました。今はほとんど忘れてしまいましたが、インドに来てから最寄りのメトロ駅近くで白杖を使っている盲人を見かけたとき、その人を駅まで案内しました。

 つたないヒンディー語で「駅にいくんですか?一緒に行きましょう」と話しかけて駅の階段を上がり改札を通ろうとしましたが、彼は窓口で無料券をもらう必要があったので、その場で他の人と代わってもらいました。無料パスを発行すればいいのにと思いますが、メトロもそこまでは整備されていないようです。

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 インドにも点字ブロックはあります。ただ、写真のように、使いにくくなっていたり、時にはバイクや自転車が置いてあったり、倒木があったりすることもあります。また、道路と歩道の段差が大きく、横断歩道が少ないことから、盲人がインドで生活していくのはとても大変なことだと思います。

 映画では、最初にスリカント誕生のシーンから始まります。彼はアーンドラ・プラデーシュ州の貧しい農家の長男として生まれました。父親が長男誕生の知らせに大喜びして母屋に行くと、そこで赤ん坊は目が見えないことを知らされます。

 父も母も泣き、父は穴を掘って赤ん坊を埋めようとします。「生きていても苦労するだけだ」と泣きながら穴を掘りますが、母が来て止めてくれと懇願します。父は思いとどまり、それからは愛情を持ってスリカントを育てました。

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 彼は遅れて学校に通い始めましたが、抜群の成績で、その後、盲学校に行きます。そこで写真の先生と出会い、先生の手助けでぐんぐん成績を伸ばしていきます。映画ではこの女優さん(ジョティカ)が素晴らしかったです。

 成績優秀にも関わらず、盲人に対する教育環境が整っていないという理由で高校への入学を拒否されると、スリカントは政府を訴えこれに勝利します。彼の素晴らしいところはその才能だけではなくて、闘う姿勢だと思います。

 高校3年生の時、正答率98%の抜群の成績でIIT(インド工科大学)を受けますが、入学を拒否されます。そこで彼はアメリカのマサチューセッツ工科大学に留学します。彼はコンピューターが得意でしたが、あえて経営学を学び、将来起業家になることを目指しました。

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 インドに戻り、2012年、身体障害者に生計を立てる機会を提供することを目的としてBollant Industriesを設立します。教育を受けていない障害のある従業員を雇用して、環境に優しい再生紙や使い捨て消費者製品などを製造する会社です。

 現在、5つの製造ユニットを運営し、年間売上高は7,000万米ドルを超えているそうです。高校生のころ、将来の夢は何かと元インド大統領に尋ねられて「インドで初めての盲目の大統領になることです」と答えたそうです。

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 これがスリカント・ボラ。まだ33歳です。
 この映画には、両親の愛情に支えられ、素晴らしい先生と出会い、自分の才能とチャレンジ精神で人生を切り開いていくスリカントの半生が描かれています。そして、ラストシーンのインドの優秀な起業家に与えられる表彰式では、スリカントは周囲への感謝を述べてから一度もらったトロフィーを返します。「自分は特別賞はいらない。」そう言っていたような気がします。彼ならインドの福祉や障害者政策を変えていけると思います。大統領と言わず、ぜひ総理大臣になってもらいたいものです。

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