JICA海外協力隊の世界日記

デリー下町生活

ナグプールの旅 2

11月2日朝7時に、ホテルの近くの駅から メトロに乗って、佐々井上人のいるインドラ寺(インドラ・ブッダ・ビハール)に向かいました。インドラ寺に着き、ワクワクしながら人に尋ねると、部屋まで案内してくれました。

 さあ、いよいよ会えるぞ。期待に胸が膨らみます。上人がゆっくりと部屋の奥の方から出てきました。最初に「デリーで海外協力隊員をやっています。今日は会ってくださりありがとうございます。」と挨拶して、虎屋の羊羹を差し上げました。

 羊羹をむいてお渡しすると、美味しそうに食べられました。昨日までカルナータカ州に行っていて、疲れたのと風邪を引いたので声が出ないと言われていました。確かに蚊の鳴くような声で話をされました。

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 佐々井上人が生活しているナグプールのインドラ寺。

 以前、ムンバイのアンベードカルの施設で、お坊さんに佐々井さんのことを聞いたら良い返事がなかったので、そのことを聞いてみたら、「彼らは私に反対している。本当は仏教徒が力を合わせる必要があるが、なかなか一つになれない。インド人は団結する力が弱い。」と言われました。

 ダライラマについても聞いてみました。ダライラマについては「破天」の中で記述がなかったので、「ダライラマはインドの仏教徒を支援したのですか?」と聞いてみました。

 すると、「彼は私の話を聞かない。インド政府から庇護されているので、私のように政府にたて突く人間とは関わりたくないのだろう。」と言われました。確かにインドにいるチベット難民のことを考えると、ダライラマもそう簡単に動けないのでしょう。

 上人はインドで悪霊に取り付かれた女性をたくさん救ったことがあるのですが、どうしてそんなことができたのか聞いてみると、「日本で山にこもっていろいろな修行をした。仏教の他に人相学や手相なども勉強した。そういう経験が役に立ったのかもしれない。ただ、やるときは気合だ。気合で勝負した。」と言われていました。

 実際、多くの女性が正気を取り戻し、熱心な仏教信徒になりました。また、それが広まり佐々井上人の評判が高まっていきました。しかし、上人は一週間憑き物と格闘した後は、体力も精神もすごく消耗し、しばらくは何もできなかったそうです。

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 マンセル遺跡。ナグプールの街から車で1時間くらい。広大な遺跡だった。

 佐々井上人の目標は大きく3つあります。一つはインドの仏教徒を増やすこと。二つ目はブッダガヤの大菩提寺の管理権をヒンドゥー教徒から仏教徒に取り戻すこと。三つ目が龍樹が作った大乗仏教の遺跡、南天鉄塔を発掘することです。

 一つ目の仏教徒を増やすことについては、56年間ナグプールで活動し、毎年仏教徒の大改宗式を行って仏教徒を増やしてきました。インドの仏教徒の数は公的には640万人(2001年国勢調査)ですが、上人はインド中の仏教徒と会い、1億5千万人くらいはいるだろうと言われていました。

 二つ目のブッダガヤの大菩提寺については、30年以上奪還運動に取り組んでいます。州の首相や歴代のインド首相に会って直接頼んだり、大勢の信徒とともにデリーでデモや座り込みを行ったりしてきました。首相の胸倉をつかんでセキュリティにピストルを向けられたこともあります。現在は最高裁判所の判決を待っているところだそうです。

 三つ目の遺跡については、二つの仏教遺跡を探しあてています。私はそのうちの一つマンセル遺跡に車で連れて行ってもらいました。マンセル遺跡はBC2世紀~4世紀まで栄えた仏教遺跡です。「鉄塔があったと思われるところを掘れば銅の塊が出てくるはずだ。その中に大乗仏教の経典が入っている。それが発見されればすごいことになる」と言われていました。

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 インドラ寺にいるときも、車に乗ってからも、仏教徒が次々に果物や食べ物をもって上人に挨拶に来ました。年寄りも若い人も、男の人も女の人も、いろんな人がいました。その様子からは上人に対する親しみと敬意が感じられました。上人は流暢なヒンディー語で応じ、特に子どもには、自分からにこやかに話しかけられていました。

 この日は、朝8時から午後2時まで、佐々井上人は私にお付き合いくださいました。腰が痛いので車の乗り降りは介助が必要だし、目が悪くなってよく見えないんだと言われていました。聞き取るのが難しいほど声も小さかったのですが、それでも時折、気合と共に大きな声を出しておられました。声が大きくて有名な人だったのです。まだその力は残っていると感じました。

 上人はナグプール一帯に多数の寺院、学校、診療所、孤児院、老人ホームなどを建設、運営しています。ナグプールはインドの中では識字率が高い都市です。佐々井上人の力によるところも大きいのではないかと思いました。

 一方で、ナグプールの街のヒンドゥー教徒やイスラム教徒に佐々井上人のことを聞いたら、だれも知りませんでした。大勢に聞いたわけではないので確かなことは言えませんが、ある意味インド人の無関心ぶりが表れているなと感じました。

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 最後に車の中で佐々井上人と一緒に撮った写真。たくさんお話できて本当に幸せでした。佐々井上人は間違いなく私の人生で出会った一番の偉人です。「今度はいつ来るんだ?」と聞かれて、つい「次は家族を連れて来ます」と言ってしまいました。機会があれば、ぜひまたお会いしたいと思います。

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