JICA海外協力隊の世界日記

カリブ海の小国・セントルシアでの防災活動日記

セントルシアの自然災害(地質と土砂災害編)

地図:GoogleMapsに地名・地質構造を追記

ブラタモリ的にニッチなテーマになりますが、セントルシアの地質と土砂災害について書きます。専門用語の解説はあまり入れませんが、面白いのでぜひ調べてみてください。

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飛行機から見たセントルシア

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飛行機から見たバルバドス

セントルシアを含め東カリブ地域(小アンティル諸島)は、主に新第三紀(2,300万年前~)以降の火山活動によって形成されました。日本と同じ時代の火山島弧ですので、日本の火山地帯と同じ地質(火山岩)です。火山列島の並びから少し外れた位置にあるバルバドスのみが「付加体」と呼ばれる地質構造になっており(日本の四国と同じ)、石灰岩が主になっています。セントルシアは尖った山が目立ちますが、バルバドスはだらっとした丸い感じで(実際、行ってみると坂道だらけですが)、この差は地質の違いによるものです。

動画1 水中火山噴火の様子

動画2 水中溶岩の流動・枕状溶岩の形成過程

セントルシアの地質は、露頭(岩石が露出している箇所)が少なく、はっきりと分からないのですが、溶岩とハイアロクラスタイト(溶岩等が水中で破砕され形成された破片の集合物)がほとんどで、ほぼ全体が水中火山活動の産物のようです。至る所にある尖った山々は溶岩ドームで、あちこちで水中での溶岩流の痕跡(枕状溶岩:pillow lava)が見られます。動画1や動画2のものが集合したものと考えるとイメージしやすいと思います。スフレなど南部は、第四紀(約250万年前~)の火砕流堆積物に広く覆われています。

柱状節理.jpg

柱状節理が発達した溶岩ドーム(ピジョンアイランド国立公園)

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枕状溶岩(ピジョンアイランド国立公園)

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ハイアロクラスタイト(自宅の裏)

一般に地表付近(表土の下)は火山灰が薄く分布しているようですが、風雨によって消失していることも多いようです。同じ理由で、崩れた土砂(崖錐堆積物・崩積土)が貯まっているような箇所も少ないです。川沿いの平野部や盆地部を除くと、表土の下にすぐ岩盤が現れているような状態です。農業の視点からすると、土壌が薄い上に栄養が貧弱(火山岩はガラス)なので、あまり適していないと思われます。このためか、バナナ畑などは栄養が運ばれてきやすい場所、つまり、洪水が頻発する範囲にあります。

全体として、土砂崩れは起こりにくそうに見えるのですが(実際、雨が降る割には少ない)、前述の通り、不安定になるほど土砂が貯まっていないことと(貯まる前に流されてなくなる)、「露頭が少ない=大きな開発工事をやっていない」ためのように感じます。道路や宅地の切土の高さは、せいぜい数m程度です。今後、大きく切土するなどの開発が進んだ場合、バサバサ崩れるようになるかもしれません。実際、近年に切土で建設されたミレニアムハイウェイ沿いの斜面はボロボロです。この辺りは熱水変質作用(地下深くから上がってきた熱水が岩石と化学反応し、劣化すること)を受けているようですので、特に注意が必要でしょう。

セントルシアの土砂災害区分は、アメリカ地質調査所(USGS)によるLandslide区分に準拠しています(同僚も誰も知らないと思いますが、資料上はそうなっていました)。カリブの防災の中心たるカリブ災害緊急管理機関(CDEMA:在バルバドス)がそうしているので、他のカリブ諸国も同じだと思います。なお、セントルシアは土砂崩れの危険性などを調査する能力はまだありません。

https://pubs.usgs.gov/fs/2004/3072/fs-2004-3072.html(アメリカ地質調査所の区分)

セントルシアにおける過去の大きな土砂災害は、大雨が降ったときの土石流(debris flow)がほとんどです。日本で一般的に呼ばれる「地すべり」(地すべり等防止法:土地の一部が地下水等に起因してすべる現象又はこれに伴つて移動する現象)はほとんどなく、私が見る限りでは「地すべり地形」も見られません(1箇所だけ確実だと思いました)。日常的には、落石や表層がちょっと崩れる程度の現象がほとんどです。土砂災害よりも気になるのが、育ちすぎた大木がチラホラあることです。土壌が薄く根が浅いので、これらの倒木の方が心配になります。

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