JICA海外協力隊の世界日記

ゆっくりのんびり、一歩ずつ

農村部(タンナ島 イマエ村)のカバ

写真1:タンナ島のヤスール火山

こんにちは。

前回に引き続き、
糸見さんから「バヌアツの嗜好飲料 カバ」について、紹介していただきます。

私も何度かカバを飲んだことはありますが、

都市部のナカマルにしか行ったことがないので、村の伝統的なカバについては無知でした。

同じ国の隊員ながら、糸見さんのカバレポートからは勉強させていただいております!

また、私はカバを通した社会の在り方についても深く考えさせられました。

それでは、カバの世界を存分にお楽しみください♪

(※ご本人のご協力を頂いて、掲載させていただいております。)
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氏名:糸見涼介さん
職種:陸上競技 
任地:バヌアツ共和国 エファテ島 ポートビラ市(首都)
配属先:バヌアツ陸上競技協会 

前回はカバ、都市部編でしたが今回は農村部編です。

バヌアツは大小83の島々からなる島国であり、首都ポートビラがあるエファテ島、第2の都市ルーガンビルがあるサント島、また、マレクラ島、タンナ島などが主要な島々となっています。

バヌアツ地図.png

タンナ島は火口のマグマが直に見られる火山として有名
(大きなリスクを伴うため、JICA関係者は火口付近への立ち入りは禁止されています)で、

昨年末はアメリカの番組の撮影でハリウッド俳優のウィル・スミスさんが来ていました。

image1.jpeg

写真3:左手奥がヤスール火山で常に噴煙を上げています。この写真は浅い川に入って撮影したものですが、実はここ、温泉です。火山の恩恵により、この島には源泉がいたるところにあります。温泉に浸かりながら、火山を眺め、後ろを振り返ると、海を一望できる素敵な場所です。

協力隊員としての活動は首都で行っていますが、離島から首都に上がって練習をしている選手もいるため、離島にあるコミュニティと緩やかな繋がりを持っています。

指導している選手の生まれ故郷であるタンナ島の北東部の山奥にあるイマエ村のチーフ(村長であり土着の信仰の神のような存在)から村へぜひ来てほしいと招待され、1週間ほど現地で滞在したことがあります。

ということで今回は、電気、ガス、水道が通っていないにも関わらず、携帯電話の電波は通っている、原始的な生活に近代文明が入り込んだ村で生活した経験を通じて、農村部の暮らしとカバについて書いていきます。

カバは今でこそ首都をはじめとした各地でお酒と並ぶ嗜好飲料として飲まれていますが、本来は宗教的にとても重要な飲み物という位置づけでした。

1700年代以降の欧米諸国のキリスト教布教以前、バヌアツ各地では土着の民族信仰が存在していたようです。現在は人口の95%以上がキリスト教信者と言われていますが、イマエ村など未だに昔からの信仰を守り続けているところもあります。

その民族信仰の神は「ナカマル」にいるとされており、預言により村人たちに道しるべを与える存在として崇められていました。

毎日夕方、その日の漁や畑仕事を終えた男たちがナカマルに集まり、村の運営などについて会議が開かれます。

仕事分担など村の生活維持に関することから、子供たちが言いつけを守らないなど様々な議題が話し合われます。

その後、神と通じることができるとされている村のチーフが、これらの話し合いの決定事項などがすべて上手くいくよう神に祈りを捧げます。

そして神にすべてのことが上手くいっていることに感謝し、今後の村の平安と繁栄を祈り、全員が会議の締めとしてカバを飲みます。

現在嗜好飲料として広く親しまれているカバは、元々は神に祈りを捧げる際に飲まれる神聖な飲み物だったのです。

また会議以外でも何か「特別なこと」があるときに振舞われます。

それではイマエ村滞在の記録とともに農村部のカバ事情について見ていきましょう。

1日目

イマエ村到着。

すぐにナカマルで歓迎の儀式が伝統に則って執り行われました。

というのも、観光開発のされていない山奥のコミュニティに外国人が来ることはめったにないようで、村史上初の外国人の公式来訪客かつ、初日本人の歓迎会には住民9割ほどである100人以上の村人が集まりました。

まず子どもたちの歌と共にナカマルへ入場、

歓迎の言葉をチーフからもらい、

こちらからは歓迎に対して感謝の言葉を述べ、

酒を交換、

そして写真撮影。

踊りが披露され、

最後、歓迎パーティーの締めにカバ。

歓迎会や結婚の儀、いざこざの解決など多種多様な「特別なこと」の際の終わりには決まってカバが振舞われます。

日本人の来訪も特別なことだったようです。

IMG_0688.JPG



カバの時間になったら女性や子供は家に帰り、夕食の支度や水浴びをします。

ここからカバを嗜む男の大人の時間が始まります。

女性や子供はカバを飲んではならないとされ、ナカマルは基本的には女子禁制となっています。

首都では伝統的な儀式というよりはアフター5の娯楽としてカバが飲まれており女性も飲むようになってきましたが、伝統を重んじるコミュニティではこの文化が未だに色濃く残っています。

S__3784708.jpg

写真6:男性だけのナカマル。一見、のんびりしている様子ですが、彼らは真剣にチーフを囲んで話し合いをしていました。

カバを飲み始めると空気は一変。

今まで歓迎ムードで賑やかだったナカマルも、男性たちによって少し張り詰めたような静寂な雰囲気になります。

風に揺られる木々、太平洋の波が海岸に打ち付ける音、鳥や馬などの鳴き声など自然の音のみが聞こえる、人工的な音が何一つ聞こえないので少し恐怖すら感じる。

まさに俗世から隔絶された感じがします。2時間ほど愉しんだら家に帰り夕食、20時には就寝します。

2日目以降

午前5時に太陽が昇り、馬と鶏の鳴き声に起こされ、村の1日が始まります。

前日に収穫したイモやフルーツを食べ、7時前には仕事が始まります。

男性は畑を耕す人、漁に出て魚をとる人、それぞれの仕事に向かいます。

男性が仕事をしている間、女性は基本的に家事をします。

昼食後は各々が好きなことをやり、日が暮れるころにナカマルに集まります。

ナカマルで話し合いをし、カバを飲み、女性たちが準備した夕食を食べ、寝ます。

3日目以降この繰り返しです。


ここの人々は365日、ほぼこの同じ生活をして暮らしています。


カバを飲んでいる時にはずっと男たちが「ここの生活は最高だろ?幸せだろ?」と話しかけてきました。

確かに衣食住が満たされ、人々はとても幸せそうに暮らしていました。

しかし、イマエ村では本当に老若男女全員が幸せに暮らせているのか、疑問に思いました。
まず、一日の生活を見てわかるように男女の役割分担がきっちりとなされています。
男女公平に権利が認められているわけではありません。

女性はなにがあっても絶対にカバを飲んではならないのか?
意思決定に女性は関わるべきではないのか?
分業は「男女」という物差しでのみされるべきものなのか?

ここにはどれほどの男女区別と男女差別があるのか?
そもそも男女間の不平等という認識がここにあるのか?
もしあるとしたら、なにをもって不平等だと考えているのか?

世界中で議論が起きている男女平等ですが、事の発端となる男女分業システムは自給自足の生活を維持するために必要不可欠なシステムだったと考えられます。

女性より体力のある男性が畑仕事や家を建てたりする傍ら、女性が家事を行い男性のサポートをするという男女分業は自給自足の生活環境においてとても合理的に働いているように思えます。

しかしながら、その延長線上に機会の不平等があるシステムは健全だと言えるのでしょうか?
全員が幸せに暮らせる環境は社会システムが健全ではないところにあるのでしょうか?

ただ最近は主に先進国で見られるような男女平等の概念も少しずつ浸透してきているようです。

例えば、3か月後に同期の女性隊員と一緒に村を再訪した際、女性隊員は村のナカマルに立ち入り、そこでカバを飲むことが許されました。

ちなみに、このナカマルで初めて女性がカバを飲む!我々の伝統と文化を変える者だ!として、そこの言葉で「変革する者」という意味をもつ「ンテイ」という名前をもらっていました。

前日、別のコミュニティでカバを飲もうとした際は、女性隊員のナカマルへの立ち入りが許可されなかったため、この待遇にはとても驚きました。

諸外国の影響を受けた都市部、そして都市部の影響が農村部にじわじわと押し寄せ、社会の意識に変化が起こり、その時までに変革の準備が整え始められていたのかもしれません。

そして突如現れた肌の白い女性が計らずとも変革のきっかけを作ってしまったようです。
現在進行形で行われる文化の進歩を垣間見たような気がしました。

しかしながらこんな疑問も残ります。

そもそも彼らにとって新しい価値観は必要だったのか?
そもそも彼らの生活や伝統文化は変化するべきだったのか?
もしかしたら他の価値観を知らない方が幸せだったのか?
はたまた誰も考えつかなかったような新たな価値観を生み出すのだろうか?
そして新しい価値観は彼らに今まで以上の幸せをもたらすのだろうか?

いま日本で議論されていることに通ずる部分が多くありますが、そもそも彼らは日本を含む諸外国と同じ流れを辿るべきなのでしょうか。

もしそうなったとしたら、日本と彼らの村とでどのような違いが出るのでしょうか。
考えだしたら止まりません。

一先ず、彼らのこれからの変容に注目していきたいと思います。

次回はカバ最終章、カバがバヌアツの経済活動や国民生活に及ぼす重要な役割について書いていきます。
基本的にお金がいらない農村部の生活の中でも近代化の波を受け現金は必要であると認識されるようになったこのご時世、カバはどのようにして国に貢献しているのでしょうか?

(※本文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、JICAとしての見解を示すものではありません。)

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