JICA海外協力隊の世界日記

ゆっくりのんびり、一歩ずつ

Vanuatu is peaceful with kava

写真1:カバ作り0 原料となるコショウ科の木の根(6,000VT=約6,000円 高価です!)。

こんにちは。

バヌアツ隊員さん紹介 第2シリーズです。

今回から3本立てで「バヌアツの嗜好飲料 カバ」について、糸見さんに紹介していただきます。

(※ご本人のご協力を頂いて、掲載させていただいております。)

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氏名:糸見涼介さん

職種:陸上競技 

任地:バヌアツ共和国 エファテ島 ポートビラ市(首都)

配属先:バヌアツ陸上競技協会 

カバとは「コショウ科の木の根っこから作られる嗜好飲料」のこと。
アルコール分は一切入っていませんが、飲むとふわ~っと、だら~っと酔います。
フィジーなど大洋州の地域で広く浅く親しまれています。

しかしバヌアツに限っては、カバは彼ら、いや私達の生活の一部を担う重要な嗜好品として親しまれています。

フィジーの隊員がバヌアツへ旅行に来ると、「フィジーのカバはカバではなかった、バヌアツのは本物だ。」などと言って帰られます。

アルコールの強さと同じようにカバにも強さ・濃さがあるのですが、バヌアツのカバはフィジーのものに比べて格段に強く、よく効くようです。

木の根っこを細かく刻み、ミンチにして、絞ってできたものがカバ。
茶色の液体でほのかに香辛料の香りがします。美味しくはありません、むしろまずいです。
カバをおいしいと言って飲む人にはバヌアツ人も含め出会ったことはありません。

それでは私のカバライフを通じてバヌアツが世界に誇る「カバ」を紹介していきます。
まず、私が住むバヌアツの首都ポートビラにはカバを飲む場所であるカババー(別名:ナカマル)が日本の居酒屋のように街や住宅地に点在しています。

写真2:ナカマル(カババー)。

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ちなみに私の家の向かいには2軒、家から半径100m以内の住宅密集地には10軒以上あるはずです。
駅前の居酒屋レベルですね。

ナカマルは言い換えればカバ専門店であり、カバとつまみのカカエ(現地の言葉で食べ物、食事)を売っています。
開店時間はあたりが暗くなり始めたころ。
だいたい17:00頃ですが季節によって早かったり遅かったりします。
24時間営業の気合が入っているナカマルも街にはあります。

写真3:カバ作り1 カバの原料の根を粉末にする。

写真4:カバ作り2 カバの原料を水に絞っていく。

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18:30 活動が終ったら、ナカマルへ直行します。

※活動が終わってからカバを飲むまで水分などはなにも取りません。
空腹かつ疲れた状態ほどカバが効きます。
どれだけコンディションを整えられるかがポイントです。

~19:00 ナカマルに到着。行きつけの場所で先輩隊員と基本的に2人で飲んでいます。

※ナカマルには食べ物が少し売っていますが、カバ以外の飲み物はあまり売っていません。
コーラなどの飲み物を持っていくとベターです。

19:00 カバ1杯目。

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カバは100バツ(バツは現地の通貨であり、1バツ=1円)で100mlと、非常にわかりやすい価格設定となっています。
基本的に50~200mlの範囲内で、50ml単位で量が選べます。
最初は150mlか200mlを飲みます。

ここでカバの飲み方を説明します。
順序としては①乾杯、②一気に飲む、③水で口をゆすぐ。

カバでの乾杯を「マロック」と言います。
そして乾杯後は一気に飲み干します。
冒頭に書いたように、カバはお世辞にもおいしいとは言えない飲み物であり、途中で止まってから再び飲むのは困難です。
少し気合を入れてから一気に飲みましょう。

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飲み終わったらカウンターに置いてある水で口をゆすいでカバの後味を消します。
余談ですが、「カバ50ml」の量は人によって異なります。
1杯が50mlくらいのお玉を店員が自作するのですが、人によって量はまちまち。
農村へ行くほどお玉が大きくなる傾向にあります。
村の150mlは街の200mlほどだと思っています。

さて、カバを飲むと口の中にピリピリとしながらも軽い麻酔を打たれたような感覚がじんわりと広がります。
ただこれはまだ序盤、これからカバを効かせにいきます。

まずサツマイモやバヌアツの伝統料理シンボロなどのカカエを物色します。
1つ20バツほどと格安です。
その後空いた場所に座り、持ってきたコーラとカカエでお口直しをしつつ、カバに集中しつつ、ゆっくりだらだら会話したりします。

※ナカマルでの大声は厳禁です。
カバに集中するためにできるだけ静かな空間を全員で作り上げる必要があります。
騒がしいと確実に注意されます。

通常、カバを飲んで5分後くらいから段々と頭や体がだるーくなり、ほわーんとする感覚になります。
頭は重いのに体の感覚はそこにとどまり続け、魂が34㎝浮いてる感覚、幽体離脱しかける時もあります。
ここまできたらばっちりです。その後、時間をかけてじわじわと酔いがさめていきます。

19:30 20~30分したらカバが切れてきますので、もう1杯いきます。

このように飲んで、冷めてきて、再び効かせるのループを2,3回繰り返していきます。
人の記憶に関する理論であるエビングハウスの忘却曲線をご存じだと思いますが、カバの効き方はこれに似ていますね。

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ちなみにカバも5杯以上、合計500ml以上飲むと2日酔いをしたりします。
上図の5回目の復習後の100%あたりを維持している線のところですね。
ある一定のラインを超えると酔いが醒めずにピーンとキマります。
こうなると2日酔いです。飲みすぎは控えましょう。

夜遅くなるまでに帰ります。3杯飲んだらもう十分です。

※帰宅しましょう。カバを飲むとどちらかというとテンションがさがります。オールはできません。

さて、ここまでカバのキホンを紹介していきましたが、どうでしたか。
なにが良いのかわからない方もいらっしゃったかと思います。

僕がカバを飲む(飲みに行ってしまう)大きな理由は、アルコールでは得られないような非日常がそこにある、あの雰囲気だからこそ話せることがたくさんある、からだと思っています。
実際、アルコールも非日常を味わえて楽しい娯楽であり、嫌いではありません。
しかし無茶ぶりを要求されたり、少し堅苦しいマナーが要求されたり、酔いすぎるといけない雰囲気もどことなく感じます。


しかし、僕はこのアルコールを楽しむ際のちょっとした息苦しさをカバに感じません。
「カバを効かせる」ことを最優先とした社交がそこにあり、カバを飲みに来たのだからカバを効かせなくてどうするという雰囲気すら感じさせられます。
暗くて静かな雰囲気の中で人目をはばからずにダラダラできることもアルコールとの大きな違いかもしれません。

例えそのような良さがあったとしても、なぜあれほどまずいものを飲めるのだと聞かれることもしばしばありますが、
いつも「あのまずいものを飲むというのはカバを楽しむという行為のほんの一部であって、あの苦行を乗り越えた先にカバを効かせる世界がある。アルコールとは違う世界が待っている。」ということを強調しています。
原理原則はアルコールと同じであって、ただあちらの世界への扉を開ける鍵となる飲みものがまずいだけであり、アルコールとは違う世界に行くのだから鍵が違うのは当たり前です。

バヌアツにはこんな言葉があります。

Vanuatu is peaceful with kava

カバを飲んでみんなリラックスするから、バヌアツは平和なんだよ。 という意味。

カバを飲んだ後は夜の街に繰り出して暴れようなんて全く思わない。
家に帰り、カバを効かせたまま寝たい。
だから夜遅くに酒に酔った人が暴れたりすることがないんだ。

近年、バヌアツ国内でアルコールが入手しやすくなってきたことから若者がアルコールを好んで飲むようになりました。

若者のカバ離れが進んでいる中、都市部では夜遅くまで酒を飲む若者による治安の悪化が懸念されています。
また、アルコールを飲む文化があまり成熟しておらずアルコールの嗜みを心得ていないことも治安悪化の原因になっていると考えています。
若者が成熟したカバ文化から「なにを心得るべきか」を学ぶこと、さらにバヌアツが世界に誇れるカバ文化が生き残ることをカバとバヌアツを愛する者として願っています。

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今回はバヌアツのカバ基本編、街のパブ的な娯楽としてのカバについて紹介しました。

次回は農村部の伝統を重んじたカバについてです。
農村部のカバ事情から見るバヌアツの部族社会について都市部のカバ事情と比較しながら書いていきたいと思います。

(文と写真:糸見涼介さん)

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