2020/06/17 Wed
バヌアツ隊員さん
カバと暮らしと経済
(今回の話題の中心は、カバの原料となるコショウ科の木の根)
こんにちは。
本日は「バヌアツ隊員さん」シリーズ 嗜好飲料カバについての最終回です。
嗜好飲料カバがバヌアツの人々にもたらす経済的な影響と彼らの暮らしについて、糸見さんに語って頂きます。
(※ご本人のご協力を頂いて、掲載させていただいております。)
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氏名:糸見涼介さん
職種:陸上競技
任地:バヌアツ共和国 エファテ島 ポートビラ市(首都)
配属先:バヌアツ陸上競技協会
前回までは、嗜好飲料としてのカバに関わる文化などを紹介していましたが、今回は、カバの原料がバヌアツの人々に与える経済や生活への影響について紹介していきます。
バヌアツの中では、カバの原料であるコショウ科の木の根、それを粉末状にし、水で漉して絞った嗜好飲料はともに「カバ」と呼ばれています。
※今回の記事に限っては、以下
「カバ」と表記している箇所→「カバの原料となるコショウ科の木の根」のことを指しています。
(2019年9月25日付けのDaily postを参考にグラフ作成。2019年6月カバは2億2,700万バツ=日本円で約2億1,100万円の輸出高を記録、全輸出商品の約60%を占める。)
大洋州で広く飲まれているカバ。フィジー、ソロモン諸島、サモアなどでも親しまれています。
その中でもバヌアツ産カバは一番質が良いと言われています。
そのため、上記グラフにある通り、カバはバヌアツにとって重要な文化であると同時に重要な輸出商品となっています。
首都のあるエファテ島ではカバ栽培が盛んではない(土壌の問題だと言われている)ため、現在首都に出回っているカバのほとんどは地方で栽培されています。
地方で栽培されたカバはその地で消費されるか、首都に送られるか、海外へ輸出されます。
つまりバヌアツのカバは、首都以外の離島が支えているといっても過言ではありません。
さらに収入源が農業などに限られている地域や、島の内陸地にある集落の人々にとって、カバは、確実に現金収入を得られる重要な換金作物となるようです。
しかし、首都で流通しているカバのほとんどはサント島、マレクラ島、タンナ島 と主要な離島からきています。
他の小さな島々でも確実にカバは栽培されているものの、首都へ十分に流通しているとはいえません 。
(道路が整備されていないため、橋でしか集落に入れない場所、草むらや森の中を車で進まなければならない場所が離島には多い。)
その大きな原因が「カバの鮮度」「交通網の未整備」と考えられます。
良質なカバ(飲料)を作るには採れたての新鮮なカバ(原料)が必要になります。新鮮なカバをいち早く首都に届けるには交通網が整備されていなければなりません。しかし多くの島の道路はきちんと整備されておらず、舗装道路がない島も多くあります。
そのため主要な島でもビジネス用のカバ栽培は比較的交通事情が良い沿岸部に限定されている傾向にあります。カバが換金作物としての大きな役割を果たす僻地ほど交通網が整っていないため商品作物としての生産に不向きというジレンマを抱えています。
自給自足生活を営む農村部でもお金が必要となってきました。
米など島では生産できない食料を商店で買いたい、スマホがほしい(電気水道ガスが通ってなくても、ほとんどの地域では電波が通っている)、子どもを学校に行かせたい、などなど。
このような理由から、タンナ島では僻地の人々が島の中心部へ出稼ぎ労働へ行くことが多くなっているようです。
平日は村を出て、首都向けのカバの栽培に従事するようです。
「安定した収入が得られる。しかも週末には家に帰れるから家族と過ごせる時間が多い。海外の出稼ぎ労働よりこっちの方がいいんだ。」と友人の一人が言っていました。
海外でも高く評価されているバヌアツ産カバ。
現在はニューカレドニアやフィジーを始めとした周辺国への輸出が好調で、さらにはアメリカにもカバがじわじわと浸透してきているようで大きな可能性を秘めています。
農村部の事情が改善されれば、さらなる輸出も可能になると思っています。
大規模なプランテーションを!!とは思いませんが、農村部の暮らしにあった形の発展がなされることを願っています。
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3つの記事に渡って、糸見さんにバヌアツのカバについて熱く語って頂きました。
ありがとうございました!
私自身は、人付き合いの1つとして、ナカマルに行ったり、カバを飲んだりしていましたが、カバづくりの裏側についてはそれほど知りませんでした。
しかし、今回の記事をきっかけに農家や生産者側の立場にも興味をもちました。
現地新聞(Daily Post)やバヌアツの農業セクターによると、カバ農家に対する勉強会やマーケティング戦略計画の実施等が始まっているようです。今後の農業発展に期待しています。
それと同時に、
実は私たち隊員が日本へ一時退避したわずか2週間後に、サイクロンが発生し、バヌアツ北部の島々を中心に大きな被害を受けました。
カバ農家の方も含め、再びバヌアツの人々の平穏で豊かな日々が戻ることを願っています。
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