2020/12/10 Thu
文化
手で、表情で、話そう!
写真① Facebook:Vanuatu Talking Social Groupより引用
Video by Aunty Nelly & the women with disabilities of Vanuatu (work CBM)
こんにちは。
今回はバヌアツの手話について紹介します。
現在、バヌアツには国内で正式に統一された手話がありません。
したがって聴覚障害のある方の中には、オーストラリアの手話を習得し、フィジーやオーストラリアへ留学する人もいます。
しかしそのような人はごく一部に限られ、バヌアツでは初等教育も受けることが難しく、学校へ通うことのできない人も多くいるようです。
なお、以下の文章では、バヌアツの状況を説明するために執筆者独自の定義で
「ホームサイン」を、個人が家庭などで使い、感情や要求などを表す役割を果たすもの
「手話」を、国や地域である程度統一され、言語の役割を果たすもの
として用いています。
未就学クラスでの取り組み
私が受け持っていたクラスにも聴覚障害のある5歳の男の子がいました。
日本であれば、聴覚特別支援学校の幼稚部などに通園し、少しずつ手話で先生や同級生とコミュニケーションを取る楽しさを学びます。
しかし、そもそも手話を使う人がいない環境だと、クラスで学んだとしても日常では使えません。
そこでお母さんに話を聞くと、お母さんと彼の間で使っている独自のホームサインがいくつかあるとのことでした。
ジェスチャーに近いですが、彼は理解力がとても高く、アイコンタクトや相づち、表情も交えて、コミュニケーションを取っていました。
また聴覚障害がなくても、身体障害の影響から話すことが難しい子も自分のホームサイン(例:水が欲しい時は口に2本の指をあてる等)を持っていました。
私も手探りでしたが、同僚と一緒にクラスを担当する時には、なるべく子どもに対してジェスチャー使いながら、遊びや活動を行うように心がけていました。
また私はバヌアツの手話やろう文化に興味がありつつも、自分が主体的に活動することはできなかったので、手話に関するワークショップなどの情報を得ては、クラスの保護者へ知らせていくようにしていました。
写真②ホームサイン冊子「Storian Wetem Han Olgeta.」
Facebook:New Zealand High Commission in Vanuatu より引用
バヌアツの手話開発における取り組み
乳幼児期など家庭で過ごしている間は独自のホームサインで良いと思いますが、やはり学習や仕事など専門的なやりとりになるとその情報保障は難しくなってきます。
日本の手話も同様ですが、手話はその国の文化や歴史的背景に大きく影響を受けていますし、音声言語の語順とも違います。
またバヌアツの公用語は英語・フランス語・ビスラマ語であり、そして各個人は自分の故郷である島や村独自の言語を有しています。
このような複雑な背景もあって、基本的に海外の手話を移植することは難しいと考えられます。
私はクラスでアルファベットを教えるときに、聴覚障害のある子にオーストラリアの指文字も一緒に教えるかとても迷いました。
将来、バヌアツの手話が確立した際、彼が混乱するのではないかと思ったからです。
配属先では聴覚障害のある方達の協力を得て、定期的なオーストラリア手話の勉強会や各自が使っているホームサインに関する情報共有を行っています。
ニュージーランド政府の援助によって作成されたバヌアツのホームサインを収集した冊子「Storian Wetem Han Olgeta.」(英訳:A Dictionary of Deaf Ni-Vanuatu Family signs) も教育省を中心に活用されています。
また現地で生活している中で、遠くにいる相手に対して手でサインを送る人や眉を動かして表情豊かに会話をする人にも多く出会いました。
障害の有無にかかわらず、非言語コミュニケーションが浸透している国であると感じました。
国で統一された手話の実用化にはまだ至っていませんが、いつかバヌアツ国内でも誰もが楽しく快適に学べ、よりよく生きられる社会になることを願っています。
バヌアツの手話の現状に関する資料はバヌアツスキルパートナーシップという団体がまとめていますので、関心のある方はこちらから
最後までお読み頂きありがとうございました。
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