JICA海外協力隊の世界日記

笠戸丸の風

第20話 島崎藤村の来伯

整理をしていたらこのような資料が出てきました。

文豪、島崎藤村(本名:島崎春樹<はるき>)がブラジルに来ていました。

【1枚目の写真 島崎藤村】

その時の写真と、後年の関連記事が掲載されている新聞を発見しました。

私は島崎藤村の作品が大好きで、特に夜明け前は3回読みました(笑)。

幕末から明治にかけての馬籠村での出来事の話しなので、読んでいると当時にタイムスリップした気分になります。

また5年前には馬籠に行き、旧中山道を歩いて妻籠まで歩きました。

馬籠や妻籠と言った宿場町や落合の石畳等、あの中山道の雰囲気がなんとも言えず好きなんですよね~。

おっと、話は戻りまして藤村の来伯。

どうやら、日本ペンクラブの初代会長を務めていた時、1936年(昭和11年)アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された国際ペンクラブ大会に出席し、その帰途にブラジル(サントス港→サンパウロ→リオデジャネイロ)に立ち寄ったようです。

この旅行には、静子夫人と日本ペンクラブの副会長は有島生馬(いくま 有島武郎の弟)も同行していました。

【2枚目写真 左から島崎藤村・静子夫人・有島生馬】

この時の様子を『巡礼』という紀行文にまとめています(『藤村全集』に所収)。

そして、藤村は日本から用意してきた古歌四首をブラジルへの置き土産としていきました。

それらを以下に記しておきます。

天さかる鄙の長路ゆこひくれば明石の門より大和島見ゆ 

【作者】柿本人麿

【収録】万葉集

【よみ】あまざかる ひなのながちゆ こひくれば あかしのとより やまとしまみゆ

【意味】都を遠く離れ田舎の長い道のりを、故郷を焦がれつつやって来ると、明石の海峡から故郷大和の地が見えた

時しらぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪のふるらむ 

【作者】在原業平 

【収録】伊勢物語・新古今和歌集

【読み】ときしらぬ やまはふじのね いつとてか かのこまだらに ゆきのふるらむ

【意味】時節を知らない山は富士山だ。今をいつと思ってか子鹿の背の白い模様のようにまだらに、白く雪を積もらせているのだろう

大海の磯もとどろに寄する波われてくだけてさけてちるかも 

【作者】源実朝

【収録】金槐和歌集

【読み】おほうみの いそもとどろに よするなみ われてくだけて さけてちるかも

【意味】大海の磯の岩肌に響かせて打ち寄せる波が、割れて砕けて裂けて散ることだ

道のべの清水ながるる柳かげしばしとてこそたちとめりつれ 

【作者】西行法師

【収録】新古今和歌集

【読み】みちのべの しみずながるるやなぎかげ しばしとてこそ たちとめりつれ

【意味】道中で、清水が流れている柳の小蔭があった。少しそこで休もうと思ったら、あまりにも心地がよくて長居をしてしまったよ

この四首は、笠戸丸移民三十周年記念碑に刻まれて、サンタ・クルス病院の前庭に置かれているとのことです。

【3枚目の写真】

なんとも、趣のある歌ですな~。

そういえば、8月22日は藤村の命日です。

それではまた

 ~笠戸丸の風を受けて~

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