JICA海外協力隊の世界日記

笠戸丸の風

第6話 浮世絵の見方 前編

はじめに

今回は日本の歴史・文化について。

多分この世界日記で、日本の歴史や文化について書いた人は、ほとんどいないと思います。

JICA世界日記史上、初の企画。と思いたい(笑)。

でもブラジルには、日本の歴史や文化を知りたい、学びたいと思っている日系人は意外と多いです。

なので、そうした人と話をする機会(呑む機会?)があった時のネタになればと思います。

詳細は第1話を参照してください。

日本の歴史・文化シリーズ第1弾ということで、日本文化の象徴の一つともいえる浮世絵を取り上げてみました。

浮世絵と一口にいっても、風景画や美人画、動物画、役者絵等、いろいろあります。

この中から風景画を取り上げて、その見方の一つを紹介したいと思います。

ちなみに私は浮世絵や日本美術の研究者ではありませんので、ここでは自分なりの見方を紹介するということになります。

でも一応、日本史研究をしているので、専門家の見方とそんなに外れてはいないと思います。

では、浮世絵の世界へレッツラ・ゴー

上の写真は、歌川広重の名所江戸百景の一つ、浅草金竜山(あさくさきんりゅうざん)です。

雪の浅草寺の参拝の様子を、雷門から本堂までを描いた作品です。

私はこの作品が大好きで、冬の時期は自分のスマホの壁紙にしています(笑)。

構図の確認

まずは、構図を確認していきましょう。

絵の上部には、雷門に掲げられている大提灯の下半分が、左側には雷門の柱の一部が描かれています。

そして、提灯の下から覗き込むように屋根に雪を被った本堂、雪の降る中をそこに向かう参拝者が描かれています。本堂の横には五重塔の上層部も見えますね。

さて問題です。

この浮世絵には何が描かれているでしょうか?

解説

縦の距離

では、構図を詳しく見ていきましょう。

2枚目の写真を見てください。

門に吊るしてある提灯の下半分に「橋」という大きな文字。多分〇〇橋と書いてあったのでしょう。

横に走る骨組みもくっきりと描かれているのがわかりますね。

さらに下の方に目を向けると、重化(じゅうけ)と呼ばれる黒い部分には卍が描かれ、重化には、提灯を支えるための紐を通す金具、上丸かん(じょうまるかん)も見えます。

一方、左側には雷門の柱の継ぎ目や、木目の模様が見えます。

この提灯と門は、細かい部分まではっきりとわかるほど、詳しく描かれています。

要するに、それだけ我々の視点から近い位置にあるということになります。

さらに3枚目の写真を見ると、雪が降る参道の端を歩く参拝者が、左右およそ一列になって、本堂に向かって歩いています。

そして、その先には本堂が。

こちらは、提灯や門ほど、はっきりとは描かれていません。

突然ですが、三次元では平行線は交わるという理論があることをご存知ですか?

どういうことか思いっきり簡単に言うと、まっすぐな線路を見ると、ずっと先で交わっているように見えますね(でも実際は交わってません)。

それを頭に思い描いて、この参拝客を見てください。

なんとなく、本堂に行くまでの奥行が感じられませんか?

そして参拝客も本堂の前で交わっています。そうです、平行線は交わるというやつです。

骨組みや部位までが細かくわかる提灯や門、参道の端に平行に歩く参拝客、そしてやや遠目に描かれた本堂。

広重は、これらを駆使して、雷門から本堂までの縦の距離を描いています。

横の距離

では次に、参拝客の部分を詳しく見ていきましょう。

参拝客を参道の端に一列に描き、そして本堂前で交わっているように見えることは既述しました。

平行線の話に戻りますが、線路が遠くで交わって見えるのは、線路の幅が150センチ弱と比較的狭いため、かなり遠くで交わっているように見えます。

この絵は、平行線(参拝客)がすぐ近くで交わっていますね。

近くで交わっているということは、参道の幅がそれなりにあるということにもなります。

そうやって見ると、左右の参拝客が結構離れている感じがしませんか。

そして、参道の左には雪を被った木々、右には建物の軒先が、参道の広さを演出するように描かれています。

要するに、参道の幅も同時に描いている。言うなれば横の距離ですね。

厳密に言うと、他の要因もあります。でも、それは今後のお楽しみということで(ややネタバレ 笑)。

さらに、もう一つ言えば、絵の左側の雷門の柱と右側の五重塔の位置関係が対角線上にあります。

左側の門の柱を大きく描き、右側の五重塔を小さく描くことによって、斜めの距離感を描いていると同時に、絵にバランスを与えているように感じます。

色も同じ朱色ですし。

まとめ

繰り返しになりますが、この浮世絵には、門や提灯を大きく細かく描くことによって、我々の視点から近いということを意識させ、そして参拝客を参道の端に一列に描き、本堂までの奥行を立体的に描いているということになります。

そして、参拝客を参道の両端に配し、参道の道幅を表現しています。

要するに、立体的な描写法を用いて、門から本堂までの距離と参道の幅を、さらには門の柱と五重塔を対角線上に描いて視覚的バランスをとっている風景画である、と言えるでしょう。

なので、正解は「距離」を描いているということになります。

この見方を頭の片隅に置いて、他の江戸名所百景や葛飾北斎の富嶽百景等の風景画を見てください。

きっと、風景画の見方が変わってきますよ。

そして、できれば、博物館や美術館で現物をみてください。写真からは感じられない迫力があります。

色々な浮世絵をある程度見ていくと、自分なりの見方が出来るようになり、どんどんハマっていきます(笑)。

浮世絵ワールドへようこそ!

ちなみに、風景画はかなりデフォルメして書いてあるということをお忘れなく(同じ配置でも実際はこのように見えませんので 笑)。

こういった話を、日系人に話すと、サンパウロ中、いやブラジル中の人気者になること間違いなし(ナンチテ 笑)。

それではまた

 ~笠戸丸の風を受けて~

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