JICA海外協力隊の世界日記

菅原洋子のミャンマー滞在日記

ミャンマーの身体障害者職業訓練施設

 ヤンゴン市北部に16年前(2000年)に日本のNGO AAR Japan[難民を助ける会]が設立した障害者のための職業訓練校があります。入学生は18歳から40歳までで、入学試験があります。訓練コースは理容・美容、洋裁、コンピュータの3コースで、各コース15名程度の訓練生が寮で生活しながら勉強します。訓練期間は各コース3か月半で、寮は男性寮と女性寮に別れますが各部屋は20台ぐらいのベッドが両側にずらっと並んでいます。昼食と夕食は食事が提供されますが朝食は訓練生が自分達で用意するとかで、それぞれの寮には調理をする場所もあります。

 一番気になるのはどんな障害かということですが、基本的には交通事故、地雷、ポリオなどによる下肢切断や下肢機能障碍の人で若干名脳性麻痺の方や聴覚障害者がいるそうです。入学試験は各コースに応じて多少違うということですが、理容・美容コースは読み書き、洋裁コースは型紙を作るための計算力、コンピュータコースは簡単な英語力が必要です。人によって技術を習得する速さに違いがあるので、障害や基礎学力に応じて勉強する内容を変えたり補習をしたりしているということです。教師は10人中8人が障害者でここの卒業生です。そのため訓練生の悩みや困難を共感でき、これまでの経験を活かして、より訓練生にあった教え方や寮生活の体制も工夫してきて今に至っているということです。ここの教師の何人かは寮監督も兼ねていて寮で訓練生と一緒に住んでいます。これも双方にとって大変なことだなと思いました。

 その日は1週間に1度、訓練生全員が参加するワークショップの日で、唯一冷房の効いたホールで4つのグループにわかれ、「職場で困ったことが起きた時にどのように自分の考えを伝えるか」について話し合いの最中でした。15年以上運営してきた経験を活かして多くの訓練生が就労に結びついていますが、経済状況の変化に合わせて技術訓練の内容を改訂し、コミュニケーション能力といった社会性をより育むことができる体制を作ることも大切だと言ってました。職業訓練の先生以外に総務会計や就労支援を担当する職員がいます。就労支援の一環として、3か月半のうちに3回個人面談をして、卒業後の就労について具体的に計画を立てます。また、卒業生を呼んで就労の経験を共有するワークショップや職場見学をする機会も持っているそうです。就労支援担当の職員は就職斡旋もお仕事のうちで、コンピュータコースを卒業した人がより多くの企業の事務職等に勤められるようになることが今の目標だそうです。卒業後は就職か自宅で開業する卒業生がほとんどで、就労形態によって給料が全然違うということです。卒業生の多くは初めての給料をもらったら両親にプレゼントするとか、そっくりそのまま両親に渡して家計に入れる人が多いです。ここの学校に来るまでは自宅で一日の大半を過ごしていた人もいます。また、両親に背負われて小学校へ通うなど、いろいろな意味で両親に支えられながら過ごしてきた方が多いようです。

 2014年度の就労率は縫製98%、理・美容96%、コンピュータ85%ということでした。卒業生のお店に就職して技術を磨き、その後開業するケースも多いようです。開業する時に必要な設備(ミシンや散髪用のいすや机、鏡など)を購入するためのローンも組めるようになっており、半額を卒業生が、残りの半額を無利子でお金が借りられるようです。ここの運営資金は日本政府や民間の助成金、AAR Japanへの寄付等によって運営してきましたが資金調達は大きな課題ということです。将来的には政府への移管を念頭に活動していますが、政府予算には限りがありいつのことでしょう。

 教室には15名程度が学習できるミシン、コンピュータ、理・美容セットが備えられていて、写真は車いすを使用する障害者がお客さんの頭を刈るときに使う椅子です。お客さんが座っている周りを座ったまま移動できるようになっています。またミシンは足踏みです。電気事情が特に悪いミャンマーでは、電動ミシンのほうが使いづらいのだそうです。今後インフラの整備が進めば状況が変化してくるでしょう。

 11月にAARがJICA草の根技術協力事業に採択内定したお祝いがありました。その活動の趣旨は、政府関係者と連携した職業訓練校の運営体制強化、マレーシアの講師によるジョブコーチの人材育成、企業への啓発による障害者の就労拡大を通じて、就労定着を目指すということでした。その背景には就職しても、職場で障害の程度や種類に応じた支援を得られずにすぐに辞めてしまうケースも多々あるようで、どこの国も抱える事情は変わらないようです。

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