2024/11/05 Tue
活動
ジャムコンクール その1
私の活動拠点のパタテ市は、果物の産地として有名です。アンデス山脈の標高2300mに位置しますが、赤道に近いので比較的温暖で安定した気候のために、ミカンを始めたくさんの種類の果物が栽培されて、首都のキトでも知られています。しかし、山間の急峻な傾斜地の畑を代々引き継いでいる昔からの農家が多く、数少ない農業組合も10名前後の小さな組織で、売ることへの取り組みが十分にできていません。私がボランティアで行うマーケティング活動は、こうした小規模農家が適正な収益を得られるように支援することです。その為に企画したのがジャムコンクールでした。ジャムをたくさん作っている果物の産地として評価を高めることで、ジャムは元より果物自体への引き合いを増やして、良い取引条件が得られることを狙いました。木に生った果物の多くが、小さすぎたり傷や熟れすぎなどのために市場に出すことができないのですが、ジャムなどの二次加工品として利用することができます。そうした農家に出会ったことがこのイベントを企画したきっかけです。きっと多くの農家が残った果物でジャムを作り、親から教えられ慣れ親しんだ家庭の味を持っているに違い無いと思ったのです。そして昨年の9月に最初のコンクールを行い、評判が良かったので今年も開催することができました。
写真:パタテ市のミカン畑
昨年はボランティアとしての初めての活動だったので、少しでも問題が起こらないよう気を使いながら計画を作りました。たとえば素人が作る食品を扱うので衛生管理の対策が気になり、保健所の許可申請等、エクアドルで求められるものが何なのか調べようとしました。カウンターパートに問合せてもなかなか返事が無く、開催間近になってようやく、「市役所が行うことなので許可はいらない」と伝えられ、この件は取り越し苦労に終わります。費用については、入賞者への賞与や諸々の材料の準備計画を立てるために、どのくらいの予算がもらえるのか問合せしましたが答えが返ってきません。特に参加者を集めるために賞金をどのくらいにしたら良いのか悩みましたが、結局賞金は用意せずに食事会への招待を賞与として募集を行いました。しかし金賞の人へ与える記念品については、よくあるプラスチック製の楯のようなものではつまらないので、こだわって地元の手工芸作家のアリリオさんという方にお願いして、通常の楯と同程度の格安の値段で小鳥の彫り物を作ってもらいました。事務所に置いてない一般的な備品など、その都度必要な物は自分で購入しました。結局、市としての予算はもらえず、しかも食事会には入賞者だけでなく市長や理事の方々も招待しなければならないということで、その費用の負担が必要だとカウンターパートから言われます。私の手伝いをしてくれていた二人の同僚にも20ドルづつ出して協力するように指示がでて、自分で賄うよりも気が重くなりました。でも、なんとかイベントとして形にできたのが幸いです。振り返ってみると予算がもらえなかったのは当然で、小さな町で財政状況の厳しい中、こちらに来てまだ半年しかたってなく会話もおぼつかないボランティアの活動に対して、市長や理事達に予算確保の説明ができるはずもありません。ここまでやらせて頂いたことに感謝するべきでしょう。
写真:小鳥の彫り物とアリリオさん
二度目の今年はあまり悩むことが無くなりましたが、他のテーマもあってやや片手間で進めざるを得ない状況でした。それでも今回特に注意したことは、私が帰国した後、来年以降も継続したイベントにするための布石を打つことです。最も気になったのは、やはり予算の確保です。昨年の実績から金額を算出してカウンターパートに相談すると、大丈夫だとの返事が返ってきました。その次に重視したのは参加者数で、十分に盛り上げて来年につなげるために、昨年より多くの人を集めるつもりでした。幸い、市の広報用のFacebookにも募集公告を出してもらえたので、人集めの準備は整いました。昨年の参加者を始め、一年間の活動を通じて知り合った方々にも声を掛けます。3つの地方自治コミュニティの代表者とも面識ができたので、募集のお願いをしました。おかげで昨年の参加者13名から16名まで増えそうな見通しを得ることができました。いくつかの種類を出品する人がいるので、ジャムの出品数としては昨年の25種類に対して26種類です。大幅な増加とは言えないのですが、いい感じで集まってきていました。 広報課の宣伝のおかげもあって一般のウェブニュースにも紹介されたため、パタテ以外の町からも二人の参加希望の連絡がありましたが、パタテの果物をアピールするためのイベントなので、丁寧にお断りをした次第です。
ウェブニュース La Horaの記事
https://www.lahora.com.ec/tungurahua/inscripciones-abiertas-participar-concurso-mermeladas-patate/
コンクールは二つのステップでランキングをつける仕組みになっています。一つ目は市のフェスティバルの時に一般の来場者に味見をして選んでもらう人気投票で、ここで上位三つのジャムが入賞作品として選定されます。あまりたくさんのジャムを味見して選ぶのは難しいので、昨年と同じく三つのグループに分け、9個の入賞作品が一般市民の参加で選ばれることになります。その後、第二ステップとして審査員の方々に、各グループ毎の金銀銅の順位を決めてもらいます。この審査ではエクセルで独自に作った評価シートを使うのですが、審査員がそれぞれのジャムの外観、香り、味の項目ごとにポイントを付け、人気投票の結果と審査員独自の印象を記述した結果が加味されます。これらの評価項目にあらかじめ与えられた重みづけが加わり、自動的に集計された結果で順位が決まる仕組みです。尚、最後の表彰式での発表まで誰が作ったジャムなのか分からないように匿名性に気をつけて全ての行程を行います。公平な評価の仕組み作りを心掛けましたが、参加者数とジャムの種類に応じた適切なグループ分けの方法や、審査員評価がより信頼を得られるようにアピールや見直しをして完成度をあげていくことになるでしょう。
又、一般の金銀銅のランキングの他に2つの賞を設けています。一つは命名賞で、製品につけた名前の中から注目度の高いものに与えます。もし商品化をするならばネーミングも重要になってきますので、考えるきっかけになればと思ったのと、少し遊びの要素もあった方が良いと思ったからです。このイベントに市長を巻き込もうと思って、命名賞は市長に選んでもらうことにしました。もう一つは、昨年と全く同じやり方では面白みに欠けるかと思い、今までになかったユニークな味に対する審査員特別賞を今年新たに設けました。新しいジャムの開発にチャレンジする刺激になることを狙ったのですが、昨年の評価シートを使った審査過程で、審査員の意見が少し反映されにくい場合があり、せっかくお願いしたプロの方に申し訳ないという気持ちもあった為です。ところで審査員は昨年と同じく隣町のシェフ組合の方にお願いしていて、ありがたいことにボランティアで引き受けて頂いています。公平な評価の為には、パタテ市内の人より匿名性が保たれて良かったかなとも思っています。
ここまでがコンクールを企画した経緯と仕組み、主に昨年の状況についてでした。今年の準備状況については次の日記でお伝えしようと思います。尚、半年ほど前にもこの世界日記で紹介していますが、コンクールの目的とイベントの構成を記録として残すために、昨年の実施結果をウェブページとしてまとめています。
https://yoshiyukisuzuki028.wixsite.com/website
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