2025/02/15 Sat
活動
養蜂家(2)


ハチミツの販売促進の働きかけに対してWilliamさんから反応があり、ようやく動き出したのは昨年の11月です。JICAエクアドル事務所の活動報告会でボランティアメンバーが集まった時に、私と同じマーケティングの職種のIさんが、日本のある商社の現地法人との打ち合わせを設定してくれました。私を含めた3名が、それぞれの活動拠点の産物の中に取引できるものが無いかどうか相談に行ったのです。カカオやコーヒーの状況を伺いながら、なかなか俎上に上がらないなと思っていたところで、各拠点でも生産されているハチミツの話になりました。たまたま丁度会社の内部で引き合いが出ているとのことで、あまり乗り気には見えませんでしたが持ち帰って詳しい情報を集めることになります。そして早速Williamさんに日本への輸出の話があると連絡をしたところ、養蜂業の実務に携わっている義兄のGuillermoさんを紹介してくれました。BMXに連れて行ってくれたMarioのお兄さんです。私達3人は各活動地域でハチミツの供給業者を探し、皆で収集した情報を整理して商社に送りました。何度かやりとりがあった後、日本市場で求められる明るい色の製品ができるかどうかがカギになり、Guillermoさんのハチミツだけが検討対象として残ることになりました。こうして商社との折衝は、調査探索から製品評価の段階に進むことになったのです。
早速Guillermoさんが関わっているパタテとイバラにある2か所の生産拠点を視察することにします。パタテの方は以前訪問していましたが、既に1年9か月が経過していたのでもう一度詳しく見直したいと思ったのです。クリスマスの翌日の12月26日に伺い、初めてGuillermoさんに直接お会いして生産工程や設備の説明を伺いました。施設は以前とあまり変わっていませんでしたが、来年の2月に国際的な食品製造の安全認証FSSC22000を受けるために、きれいに改装する予定とのことでした。屋根にたくさん並べられていた巣箱はハチミツを採取するためではなくて、病気にかかった蜂の巣を治療しているとのことです。又、そこでは女王蜂の数を増やす作業をしていて、女王蜂を他の養蜂家に売るとともに協力業者を増やして他の地域からも蜜の供給を受けているようです。組織としては5名の事業者によるグループで、1100の巣箱で採取しています。ところで果樹栽培が盛んなパタテでは、結実のために蜂は大事な役目を果たしていて、多くの農家で養蜂が行われてきました。道端の販売所ではミカンや桃、アボガドとともにハチミツも見かけますが、色はかなり濃い目です。アボガドの蜜が入るとどうしても色が濃くなってしまうそうです。しかし開花の時期に合わせてアカシヤやユーカリのある地域に巣箱を設置する事で、透明なハチミツを得ることができるとのことでした。
もう一か所、キトの北のイバラにある共同経営者の生産拠点は、生産量がパタテよりはるかに多いので、ここが商社との取引の鍵になります。 Guillermoさんは実はキトの大学の先生で、月曜日から金曜日は大学で教育学を教えており、週末にパタテやイバラの巣箱を見て回っているとのことでした。ちょうど年末に私の家族がエクアドルに旅行に来て、偶然ですがイバラの方に行くことにしていたので、パタテの生産所を訪問した翌日の12月27日に、家族と合流する直前に視察に行きました。
サン・アントニオ・デ・イバラという自治区の町外れに事務所と採取施設があります。敷地の入り口にはガラス張りのモダンな事務室があって、そこで共同事業者のLoreanoさんの説明を受けました。主な取引先が国際的な食品会社のN社と聞き、内心興奮してきました。年間の生産量は60トンで、エクアドルの国全体の生産量が600トンぐらいだとのこと、全国の1割をここで生産していることになります。ハチミツの生産は比較的少ない投資でできるので、多くの発展途上国や中進国で農家の副業として行われており、近年は中国が圧倒的な生産量を誇り世界中に輸出しているそうです。しかしハチミツ業界にはしっかりとした基準が無くて、希釈して糖分を加えられた製品が出回り市場を荒らしていると嘆いていました。エクアドルのスーパー最大手のⅯ社にて“純粋ハチミツ”と書かれた製品でも、本物は一つもないようです。価格は5分の1以下にもなるので、100%にこだわっているGuillermoさん達の苦労がわかります。純粋さを売りにするためには、ハチミツに含まれる成分を分析してその効果を示すなど、アピールの方法を考えなければと思いました。ニュージーランドのブランド“マヌカハニー”と比較して、互角に渡り合えるような結果が出たら強力な売り文句になるかもしれません。


以前私は技術者として、製品開発のために部材メーカーを巡り歩いた時期がありました。国際的に通用する製品を供給する業者は、どことなく雰囲気が違います。ここの製造現場を見た時にも、最初にそれを感じました。パタテの生産所はローカルな雰囲気が漂っていましたが、イバラではN社の指導に従い国際基準に沿って管理されているみたいです。ハチミツの色合わせのための混合と保管、出荷する施設に入る時には、前室の更衣室で、白衣や頭にかぶせるキャップ、手袋、靴カバーを身に着けます。そこでは衛生管理の為に個別に仕切られた作業担当者毎のブースもありました。壁には身なりを確認する為の見本写真が貼られ、壁、天井、床は汚れが目立つように真っ白です。当然、市役所の部屋で見かけるようなゴミは一つも落ちて無く、入り口には透明なビニールの暖簾のようなものが掛けられて、蜂やハエ、ホコリの進入を防ぐようになっています。作業場兼倉庫の中では、壁に貼られた工程名や保管場所の区分けを示すラベルに従って設備やストックが置かれ、余計なものがありません。蜂の巣の板から蜜を採取する作業場でも、真っ白に塗られた壁に工程毎の作業マニュアルが貼られているだけで余計なものは無く、“5S”が徹底されています。屋外では、キャップをかぶりマスクをしてエプロンを巻いた女性が、“洗浄エリア”のラベルが貼られた洗い場で作業をしていました。こうした状況の写真を添えて、視察の報告書を休暇明けに商社に送りました。


その後商社とメールのやり取りが続きましたが、価格の話が出てきてから、Guillermoさんからのレスポンスが遅れて少しもたつくようになります。Guillermoさん達はN社の国内拠点に出荷しているだけで、輸出の経験がなかったのです。FOB(コンテナに積載して出港する港で引き渡す時の価格)を求められても、積算方法の検討がつかなかったに違いありません。私が昔仕込んだ乏しい知識で助言し、励ましながら催促して、ようやく目安となる概算価格まで伝えることができました。N社への取引価格がベースなので、妥当な価格のはずです。しかし商社からの返答は、競合となる南米の他の国からはるかに安い価格が提示されているとのことで、今回の引き合いに太刀打ちできるものではありませんでした。それでもN社との取引実績のおかげかもしれませんが、すぐに打ち切りとはならずに引き続き折衝の問合せを頂きました。
しかしこの時点で、私の二年間のボランティアの任期が終わりに近づいていました。今後はGuillermoさんと商社が直接やり取りすることにして、双方にお互いの連絡先を伝えます。Guillermoさんからはこれからの進め方について相談があったので、パタテを去る6日前に再び養蜂場のある彼の家に伺い、日本流の商談の進め方のアドバイスなどをしてきました。後ろ髪をひかれる思いですが、日本で良い知らせを聞けることを願っています。
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