2024/01/31 Wed
自然
チンボラソ登山
この山の名前を聞いたことがある人は少ないと思いますが、エクアドルでは一番高い山で標高が6268mあります。 南米大陸の太平洋側に沿って縦方向に続いているアンデス山脈には、6000mを越える山が20以上つながっているそうですがその中の一つです。 ちなみに世界最高峰のエベレスト(8841m)に比べると2000m以上低いのですが、赤道の近くに位置していて地球が自転の遠心力で膨らんで水面も上がっている為に、海抜ではなくて地球の中心から測ると世界で一番高い山になるそうです。
JICAのボランティア仲間の一人と、この山に近いリオバンバという町で活動しているもう一人の仲間の家に泊まり、早起きしてバスに乗り出発しました。年末の12月30日だったせいか乗客が多く、同僚が席を譲ってくれたのでなんとか座れた状態です。 1時間ほど乗った登山口の停留所で、混み合うバスから降りました。 車内で私の後方にいたボランティア仲間に続いて、二人の女性も降りてきました。 彼女たちはコロンビア人の親子で前日にリオバンバの観光案内所で出会い、ひょんなことから一緒に登る約束をしていたのです。 情報をシェアしていたとは言え、朝早くからの我々の計画についてくるとは思ってなくて正直驚きました。 下車した5人でひんやりとした空気の中を歩き始めようとした時、初めて目の前に山があることに気が付きました。 それまで全く気配すら感じていなかったのです。 真っ青な空を背景に雪を抱いた白い峰が静かに横たわっている姿は意表を突くものでした。 私が住んでいる町パタテからも、少し高台に行くとこの山頂が見えることがありますが、大抵は雲で覆われています。 それが目の前で雲をまとわずにたたずんでいる姿を見られたのはとても幸運なことでした。 朝日を浴びて輝く様子はここでしか体験できないものでしょう。
登山とは言っても車でふもとの避難小屋近くまで行き、そこから250m上にある第二避難小屋まで登っただけです。 とはいえ日本では体験できない標高5100mに到達したことになります。 チンボラソは休眠中の活火山で、周りは砂礫でおおわれ溶岩や噴石がごろごろしています。 登山道は雪解け水のつたう筋と重なり不陸がありますが、おそらく傾斜はせいぜい10度前後でしょう。 しかし歩幅ぐらいずつのゆっくりとしたペースで進まないとすぐに息が上がってしまいます。 コロンビアから来た二人は、娘さんがそうとうに難儀している様子で休憩の連続です。 最初は彼女たちのペースに合わせながら、余裕のできた時間を写真撮影にあてていました。 しかし間もなくあたりが雲に覆われて山頂がたまにしか見えなくなったことと、このままでは先を行く仲間の二人に追いつかなくなると思って登ることに集中しました。 足元が滑らないよう踏み場所に十分気をつけていても、酸素が足りていないせいか体がふらつき、登山用のステッキが欲しくなります。 やがて第二避難小屋が見えたので希望が湧いてきたのですが、登っても登っても近づいた気がしません。 ときどき見上げるたびに遠ざかっていくように感じます。 追いつこうと思っていた仲間の二人の姿も目に入ってきませんでした。 ようやく小屋にたどり着き、一息ついて記念写真を撮っていると、上のほうから仲間の一人が降りてきました。 その後もう一人も降りてきます。 二人はさらに10分ほど登った最終目的地の湖まで行ってきたのです。 私も登る気力はあったのですが、ふもとに待たせている帰りの車に超過料金が発生することになりそうなので、少し未練を残すことになりました。 それでも標高5100mの証拠写真が撮れたので十分に満足です。
3人で引き返し始めると、思ったよりも上まで登って来ていたコロンビアの母娘に出会いました。 最初は彼女達も引き続き登る意志を見せていましたが、一緒に引き返すことになりました。 あと15分もあれば少なくとも二番目の小屋まではたどり着けたでしょう。 せっかくここまで来たのに中途半端な思いをさせてしまって申し訳なかったなと、後で思い至った次第です。 ふもとの避難小屋近くまで下りてくると登ってくる観光客が増えて来て、すれ違う時には道を譲るために立ち止まる事も増えてきました。 人が沢山いることで、朝初めて見た時の神聖な空気はもうどこかに行ってしまったようです。
ハイキング程度の登山しかやったことがなかったので、いままで山にはあまり魅力を感じることはありませんでした。 しかし、今回の体験で遅ればせながら、山のすばらしさを学ぶことができました。 たまたまボランティアの為にエクアドルに出発する少し前に、夢枕獏の「神々の山嶺」というエベレストにとりつかれた男の小説を読んでいたのですが、そこに描かれていた情景をここに来て身をもって感じることができた次第です。
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