2025/01/28 Tue
生活
【51】ボルグ ミヌフィーヤ
アッサラーム アライクム!
私の任地クエスナは、「ミヌフィーヤ県」にある町です。
(人に言うと、かなりの確率で、「ん?ミルフィーユ?」と聞き返される)
特にこれといった観光名所がある訳ではなく、レストランの数も少ないですが、隊員が遊びに来てくれた時にいつも行くお店があります。
このお店は、エジプト料理のフィティール(パイ生地を焼いてバターを塗ったもの)が有名です。
(ミヌフィーヤ県でフィティールが有名なのだと思っていたけど、どうやらこのお店で有名ということらしい)
レストランの名前は、「ボルグ ミヌフィーヤ」
ボルグはアラビア語で塔という意味なので、「ミヌフィーヤの塔」という意味のお店です。
このレストランには何度も足を運んでいて、常連客。
私の顔を覚えてくれていて、お店に行くと、「あ、来た来た、いらっしゃい」という感じで迎えてくれます。
帰国1ヶ月を切り、これが最後になるかなと思いながら、レストランへ行った日の話です。
お店に行くと、いつものおじちゃん店員がいて、「前に言ってた服、用意できているよ!」
このお店では、店員さんがお店のマークが入った服をお揃いで着ています。
(初めの頃はそんな服を着ていなかったと思うので、最近作ったのかな?と勝手に思っている)
前回お店に来た時に、「その服、素敵だね!2月に日本に帰るから、思い出に私も欲しい!」と言っていました。
「分かった!」と言ってくれたものの、まあこういう約束は果たされないだろうな、と期待はしていなかったのですが・・・!
本当に準備してくれていた!!
デザインが2種類あるということで選ばせてもらい、「いくら?」と聞くと、「お金はいらないよ。日本に帰るんでしょ?お土産だよ!」
そんなつもりで言ったんじゃないし、申し訳ないと思いつつ、ありがたく頂戴しました。
お店のオーナーだという人(後から別の人がオーナーだと名乗り出てきて、結局この人の役職がなんだったかのかは不明)がやって来て・・・
「女性がフィティールを作っている所を見たことある?」
「あなたは、きっと今日が最後だろうから、特別に見せてあげるよ!」
私はてっきり、お店の中の窯で焼いているんだと思っていました。
が、彼が連れて行ってくれたのは、店の外。
そこには、レンガ造りの建物がありました。
このレストランには庭もあり、広いなと思っていたけれど、こんな場所があったとは!
ご飯を食べる場所からは、少し見えにくい場所にあるので、全然知りませんでした。
建物の中に入ってみると・・・!
大きな窯があり、中では赤く炎が燃えています。
女性が2人いて、1人は丸く厚みのある生地を麺棒でのばして、薄くする。
もう1人は、薄くした生地を窯の中に入れ、焼きあがったものにバターを塗る。
とにかく手際がいい!
集中して見ないとどうやって作っているのか見逃すほどで、瞬く間にフィティールが完成していきます。
隣にも部屋があり、そこには女性が4人。
さっきの薄くのばす前の生地を作っている所でした。
3人が生地を小さく切り分け、小さな団子のような形にする。
1人が、その団子をいくつか集めて大きくし、重さを量る。
こうしてできたものが、さっきの窯があった部屋に運ばれていきます。
ここでの作業も素早くて、誰がどんな役割担当なのか、ぱっと見ではよく分からないスピードでした。
「この子は日本に帰るから、今日は特別に作っている所を案内しているんだ」とオーナー。
「このレストランには何回も来ていて、フィティールも何回も食べているんだけど、こうやって作っているんだね!」と私。
すると、「あなたもやってみなよ!」と女性陣。
「え!いいの!?やりたい!!」
横に座らせてもらい、生地を触ってみると・・・柔らかい!!
想像以上にふわふわで、びっくり!
ずっと触っていたいと思うほどでした。
見よう見まねで、生地を丸めました。
上手にできていると思っていたけど、女性達からは「違うわよ!こうよ!」と指導が入りました。
簡単なようで、難しい・・・
熟練の技なんだなあ、と彼女達のすごさを身に染みて感じ、お礼を言って建物を後にしました。
(出来立てのフィティールを頭に載せて、レストランまで運ぶ女性を見かけ、その安定具合にまた驚き!)
最初の服の話に戻って。
服には、「塔があって、その周りを鳥が飛んでいる」というマークが入っています。
この塔は、エジプトのいろんな所(特に田舎)にあり、鳩を捕まえるための塔です。
(エジプトでは、鳩を食べる習慣があり、塔にある穴にエサを置き、そこにやって来た鳩を捕まえるのだとか)
このお店自体にも、シンボルとして塔が建っており、「ボルグ ミヌフィーヤ(ミヌフィーヤの塔)」というのはこの塔のことを表しています。
なぜ、エジプト中にあるこの塔が、クエスナにあるレストランのシンボルとなっているのか?というと・・・
昔々、ミヌフィーヤ県であった話です。(オーナーさんから教えてもらいました)
ある兵士が、塔の近くにいた鳩を撃とうとしました。
すると、狙いがずれてしまい、塔にいた女性を撃ってしまったのです。
残念ながら、女性は亡くなってしまいました。
わざとではなかったとは言え、その兵士は周りから責められ、ミヌフィーヤを去らざるを得なくなりました。
しかし、炎天下の中、長距離を歩き続けたことで、その兵士も亡くなってしまったのです。
誰も悪くなかったものの、不幸なことに2人が命を落としてしまいました。
・・・という話から、最初のきっかけ?となった鳩を捕まえるための塔が、この町のシンボルになったそうです。
クエスナに来てまもない頃、このレストランの前を通りかかった時。
活動先の同僚の先生から「この塔が、クエスナのシンボルだよ!」と言われました。
そうなんだ、くらいにしか思っていませんでしたが、きっとこの逸話を伝えたかったんだろうな。
さらに、「塔があって、その周りを鳥が飛んでいる」マーク、実はミヌフィーヤ県の県章になっています。
町の中で見かけたり、図工の授業で子どもが描いたりしていて、どうしてこれが県章なんだろうと不思議に思っていました。
帰国間際にして、ずっと気になっていた謎が解けました!
普段なら入れなかっただろう、フィティールを作っている様子も見ることができ、「最後だから!」の威力を感じました。
たくさんの学びがあった、いい日でした。
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