JICA海外協力隊の世界日記

マラウイ湖の魚は大洋の夢を見るか

政治アピール化する伝統行事とじいさまたちの胸の内

マラウイは様々な民族が共存しており、公用語にもなっているマジョリティのチェワ族の他に十以上の民族がいます。少数民族の一つ、その昔南アフリカからマラウイに移住してきたンゴニ族は戦いを好む勇敢な戦士の民族として知られていますが、現在ンゴニ語を話す人はほどんど残っておらず、民族も様々な場所に分かれて住んでいます。
しかし、一年か二年に一度、ンゴニ族がマラウイ全土、そして南アフリカやザンビアなど他国からも集まり、ンゴニの文化を祝ってダンスを踊るお祭りがあるというのです。今年はンゴニ族にとって聖なる山であるHola Mountainの麓で行われました。同期隊員の同僚がンゴニ族であり、実家がそのHola Mountainの麓にあるということで、彼の里帰りにくっ付いてその伝統行事を見に行かせてもらいました。

朝9時から始まると言われてたイベントが実際に始まったのは時計の針が11時に届くかどうかという時刻。
しかし昨日までは何もなかった広場に来賓用のテントが建ち並び、車が次々と到着、村の人口の何倍であろう数百人の人々が集まっています。太鼓が鳴り響き始め、いよいよ祭りが始まります。

観客が半円を作り、その中に出来た空間で数人のダンサーが登場し踊り出しましたが、突然「大統領閣下が来られるため許可された方以外は写真を撮らないで下さい」のアナウンス。警察官、軍関係者までが観客席の間から目を光らせています。

その大統領は、アナウンスがあった後もなかなか姿を見せず、ようやく来たと思ったら何と十台以上の車が行列をなしてぞろぞろ会場を横断しています。そして車のまま来賓テントの前に横付けし、敷かれたレッドカーペットを歩いて席に着きます。その瞬間、音楽隊によるファンファーレが。(大統領の着席と退席、そして国歌斉唱の時のためだけに20人以上がわざわざ来ていたみたいです。)

この地域の伝統的首長も到着し、首長や地域の代表者、そして大統領のスピーチが行われました。その演説中、大統領の名前が読み上げられたり大統領が話す度に、大統領の写真が印刷された水色の布を身に付けた女性たちが拍手をしたり歓声をあげます

地元の遺産協会(heritage association)や首長の演説では、ンゴ二族の歴史についての説明など興味深いものもありましたが、大統領を讃えたり、地元に電気を通す計画を立ててくれてありがとう、来てくれてありがとうといった内容が多過ぎたように感じました。

観光庁の大臣も来ていたので、ンゴ二の文化をアピールし文化保存や観光ツーリズムの援助をもらうためプレゼンテーションの機会でもあったのかなとも思います。
大統領は政治アピールの場として伝統行事を利用し、現地では大統領を讃えて何かしら良いサービスを期待するという構図なのでしょうか。
ダンスもとりあえずわらわら舞台に出て行ってお偉いさんに向かって踊る。え、今出るの?今踊るの?などとあたふたしている人もいるなど、もう一つ覇気がありません。

しかし、ふと端の方を見た時、毛皮の衣装を着たおじいさん二人が目に留まりました。そこは全く別の空間でした。激しくはなくどちらかというと静かに踊っているのですがその動きは滑らかであり、何よりも二人の動きはシンクロしているのです
主に両脚でステップを踏みながら足首に付けた鈴を鳴らし、時々ターンをするシンプルなダンスなのですが、ターンのタイミングで二人で目を合わせたり反対の方向に回って対峙したり。そして二人とも穏やかな笑顔を浮かべているのです。これが年月の重みかというような素敵な空間。しばらくその2人から目が離せませんでした。

その後、あっさりと大統領は車に乗り込んで帰り、イベントも終わりましたが、ダンサーたちはすぐに帰らず自分たちだけで踊っていたのです。舞台で踊っていた時より迫力と笑顔があり大きな掛け声も自然と飛び交っていました
その時に撮らせてもらったのが最初の写真です。
個別に話しかけた時も「格好いいだろー!写真撮るか?」と言ってくれたり、衣装を見せてくれ、こちらに帽子を被せてくれたり触らせてくれました。 毛皮で出来た服は山羊の皮を使っているそうです。その他木の実などで作った数珠のようなものを身体や腕に巻いていたり、イタチの様な小動物の剥製を装飾品にしていました。

また今回ホームステイさせてもらったマラウイ人のお家でも80歳のおじいさんがダンスに参加していました。毛皮の衣装を身にまとうのではなくこなれたスーツにツノのように藁を刺した帽子を被っており、前夜はその帽子を誇らしげに見せてくれ、わしも明日踊るんだと話していた顔はとても穏やかで楽しそうでした。

狩りの後に踊っていたンゴニ族の伝統的な踊り。誰かに見せたりアピールする踊りではなく身体に刻み込まれているのは自分たちの踊り。だからあんなにも自然で穏やかな空間となったり、心から踊るのを楽しんでいたのでしょう。
伝統行事に政治色が混じるのは残念だけど、昔からの歴史の重みは色んなところから感じることが出来るのだなぁと思うのでした。

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