JICA海外協力隊の世界日記

マラウイ湖の魚は大洋の夢を見るか

バス旅は道連れ世は情けと助け合い

アフリカのバスの旅にはハプニングがつきもの。

世界の辺境に日本人を探しに行くテレビ番組を見たり、バックパックをかついで世界を放浪する旅人の本を読んでそんなことは百も承知だった。
でも人間はなぜか自分だけは大丈夫と信じてしまうものである。

だからバスが突然止まった時も警察の検問かなんかで一時停止しただけだと信じたかった。
エンジンから白い煙が出ているのが見えたが、ボンネットを開けて何かをいじったらまた動き出すと心のどこかでは信じていた。
そんな私の希望を打ち砕いたのは「Break down」と言う乗客の誰かが呟いた言葉だった。
朝6時に乗り込んだバスが11時に出発したこともあったマラウイで、地方都市から首都に向かうバスが朝の7時半に出発したのは幸運だった...はずだったのだが、それがこんな走り出して2時間も経たずに壊れるなんて...。乗客はみんな荷物を持ってバスを降りている。
後続で出発したかなり古いバスや小さなミニバスがどんどん追い越していく。

まず携帯電話の電波が通じないのを確認してため息をつきながらまたポケットにしまった。
バスが壊れたのは仕方ないことにしても問題はここからどうするかだ。
周りを見渡すと他の乗客は全て地元のマラウイ人で外国人は私一人ということに今更気がついた。
バスの運転手や乗客同士がいろいろ話しているが現地語なので私にはほとんど分からない。
乗客の何人かは通りがかった車やバスをヒッチハイクして飛び乗る人もいた。

待つべきか次の街まで歩くべきかヒッチハイクするべきか。

マラウイの滞在経験も国内の移動経験も乏しい私には想定外の状況で何が最適かを見極めることは難しかった。
一番価格の高いバスに乗れても実際にハプニングが起こった時に外国人は弱いというのを痛いほど実感した。

その時「代わりのバスが来るから待っていたら大丈夫だよ。」
と教えてくれたのは隣の席に座っていたお兄さんだった。

実はその時の私は「現地の人となるべく喋りたくない」時期だった。
マラウイに到着し、現地語を覚えて積極的に話していたはじめの数ヶ月のあと、気心のしれてきた配属先の人たち以外の、市場や旅先で馴れ馴れしく声をかけて来る現地の人(特に男性)の応対に疲れていた。こちらが少しでも喋るそぶりを見せたら二言目には「携帯の番号を教えろ」「結婚してくれ」など意味のわからない展開が続いたりいきなり肩を掴まれたり、度を超えたフレンドリーさとしつこさに辟易としていたのだ。
そこで今回乗り込んだバスでも隣の人とは最低限の挨拶のみで寝たいから話しかけないでねオーラをだしていた。
バスがストップするまで特に会話らしい会話をしていなかったにも関わらず、隣の席の彼はその後も時々気にかけてくれ、「代わりのバスはあと2時間で着くよ。」と教えてくれたり、そのバスが到着して、人々が殺到して席取り合戦を始めた時は、「席取っとくからね。」と言って、私の席を確保しておいてくれたのだ。

代わりのバスが走り出したあと、お互いに自己紹介して、本当にありがとうとお礼を述べた。
彼はホテルのレストランでコックをしているらしく、故郷での休日が終わり首都に戻っている途中だった。「今日もこれから仕事なのに遅れるから怒られるよ。」と苦笑いして頭を掻いていた。
代わりのバスは数年前に現役を引退したかのようなボロボロのバスで運転はのろのろ、しかも一度エンジンが止まりかけた。結局首都に帰り着いたのは予定より4時間も遅れた17時半。それでも状況を教えてくれたり、愚痴を言い合う相手がいたことでイライラもせずに安心して乗っていられた。携帯電話の電池がなくなった彼が勤務先に連絡したそうだったので私の携帯を貸してあげるととても感謝された。

今は絡んでくる現地の人の応対にもだいぶ慣れ、時には怒ったり往なしたりしながらも、街の色々な人と関われている。強がっていても自分はこの地ではハプニングが起こった時に周りの助けが必要になる外国人だと実感したこともあるのだが、彼のように困っている時に自然に良い距離感で手を差し伸べてくれる人と出会えたことが良かったなと後になって思う。

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