マラウイ湖の魚は大洋の夢を見るか(矢倉隊員は帰国しました。)

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矢倉 厚子
大阪府

タイプ/職種
青年海外協力隊
理学療法士
派遣国
アフリカ
マラウイ、リロングウェ県リロングウェ市
一言メッセージ
ほとんどの日本人が知らない、でも面白くて温かい、不思議な国マラウイ。アフリカの歴史や文化、そしてそう来るか、というマラウイの日常の驚きをお伝えします。

 

マラウイ的等価交換の原則と小さな賭け。

2016.03.07

人 文化

「駐車場まで家族を運ぶから車いすを貸して。」

「え?ああ良いですよ。廊下に置いていると思います。」

病院のリハビリテーション室で患者さんの家族に声をかけられたので反射的にそう答えました。

その時同僚がすかさず

「だめだめ。貸しちゃだめだよ。」

「え、何で?」と尋ねると

だってそのまま盗られるかもしれないでしょ。だから駄目だよ。枕とか血圧器もいつの間にかなくなっちゃうんだから。」

配属先の病院で働きだした時、最初にショックを受けたことは、物の紛失でした。

先輩から忠告を受けてはいたのですが、ついうっかりペンなどを置き忘れるといつの間にかなくなっていたり、貸したペンが一日経っても戻って来なかったので、「返してよ。」というと、

「机の上に置いてたら誰かが持っていったのよ。ほんと酷いわ。」と。

…いやいや、酷いのはあなただよ。私のボールペン…。

たかがペン。されどペン。特に書きやすい日本製のペンは減らしたくなかったのに…。

同僚たち、気の良い人が多いのですが、物の貸し借りになるととてもルーズだし、誰かの聴診器やペンがなくなることはしょっちゅう。

対策としては貸したとしても絶対に誰が自分のペンを持っているかをしっかり覚えておき、絶えずリマインドすることや物に名前を書いておくこと。

日本でも共有のペンが何故かなくなっていくことはありますが、マラウイでの公共物(私物)紛失率はとてつもなく高い。親切心で休暇中に貸してあげていた血圧計が戻ったらなくなっていた時は悲しくなりました。

そして私が患者さんのリハビリのために使う道具を隣にある小児リハビリ室から借りる時にも

「すぐ返してね。」「それどこに持って行くの?」と毎回のように聞かれるのです。

「患者さんの指の運動に使うのよ。」というと一応分かってはくれるのですが、

「そっち(私たちが使っている部屋)にないの?」と言われたり、余り良く思われていないというか信用されてない雰囲気なのです。

「いや取らないし。すぐ戻すし。」と心で反論し、仕方ないんだろうなと思いながらも、悲しいような釈然としない気分です。

そんなある日患者さんの治療をしていると、その患者さんの家族が

「今車椅子使ってないなら貸してくれない?」と言われていました。

少し渋りつつも何かを相談している二人。そして相談がまとまったのか、声をかけてきた人は携帯電話を置いて車いすを借りていきました。

これは携帯電話を人質にしたということなのか?

確かに理にはかなっていますがそれを言い出すのって気を使うよね。と思う日本人的感情。

その後無事に車いすは返って来ましたが、そんな保険のかけ方が堂々とできるなんて。と目から鱗の気分でした。

でもやっぱり信頼した物の貸し借りが出来ないのは辛いなと思っていると、

何と同僚の女の子から「お金を貸してくれないか」という話をされました。

しかも2万クワチャ(4000円)という現地では結構な金額です。

日本でもお金の貸し借りは友情の破滅に繋がることがあります。

マラウイではなおさらそういう話を聞くのでできれば貸したくないというのが本音。

でもその同僚は私が一番信頼している人といっても過言ではなく、銀行の口座が一時的に引き出せず、どうしても今週末にいるから貸して欲しいとのことでした。そして来週中には絶対に返すと言ってくれます。

もうこれは私が貸したいから貸すのだと腹をくくり

「いいよ。じゃあ来週返してね。そして他の人には私が貸したって言わないでね。」と返事をすると、

「本当にありがとう!頼める人がいなくて困ってて。」と言われたのでとりあえず後は祈るのみです。

結果は…

しっかり次の週に返してくれました。

しかもちゃんと封筒に入れて。

別に私が得をした訳ではないのですが、お金というより信頼を返してくれたのがとても嬉しく、この感覚が欲しかったんだと思いながら小さな賭け事の勝利に密かにガッツポーズをするのでした。