JICA海外協力隊の世界日記

マラウィ・デイズ

Learner centered class

視覚や聴覚に障がいのある子供たちのために、

特別支援教育を専門に学ぶカレッジ。

私の配属先は、その学校の聴覚障がい学科である。

登録されている41人の学生は

既に教員免許を有しており、

マラウイ国内にある普通校の現役教員でもある。

私はここで、副校長先生と一緒に

音声学という科目を担当している。

マラウイへ派遣される前に、

福島の訓練所で授業練習を重ねてはいたものの、

新セメスターが始まるまで、

私は気が気でなかった。 

ある日曜日、そんな私を知っていた同僚の

レニック先生が、教会へ行く前に

私の家に来てくれた。

「難しく考えないで。気楽にやればいいから」と

大きな口を開けて豪快に笑いながら、

なんとも楽観的な言葉をかけてくれた。

私はあまりに根拠のない慰めにあきれはて、

一緒に笑うしかなかった。

この先生はいつもこうなのだ。

でも本当は、きっと私の緊張を

ほぐそうとしてくれていたのだろう。

そして帰り際に、少し声のトーンを落として

彼は私にこう言った。

「ひとつだけアドバイスしよう。

ここではTeacher centered classはダメ。

Learner centeredでやるんだよ。」

そうだった、そうだった。

このレニック先生はいつもそうなのだ。

かるくおどけた後に、急に真面目な顔をして

相手の奥に残るような一言をさらっと言うのだ。

私は初めて耳にしたLearner centeredという

言葉を頭の中で繰り返しながら、

教会へ向かうレニック先生の背中を見送った。

Learner(学習者)centered(中心)の授業?

つまり教員が一方的に授業を進めるやり方は

ダメだよと伝えたかったのだろうか。

確信を得ることがないまま数日が過ぎ、

新セメスターが始まった。

私は自宅で何度も繰り返し練習した段取りで

授業を進めることに手一杯だった。

残りあと10分ほどで終了しかけたとき、

思いがけないことが起きた。

理解の早い一人の学生が突然立ち上がり、

他の学生に教え始めたのだ。

すると、それまで静かに座っていた

他の学生たちも次々と反応しはじめ、

中には突然教壇まで出て行き、

皆の前で教えはじめる学生も現れた。

さすが、このカレッジの学生たちは

現役教員ばかりだ。

人前で話したり説明したりすることは、

彼らにとっては日常のことなのだろう。

私は予想していなかったこの急な展開をゆっくり

楽しむことに決め、教室の最後列へ移動した。

活発な雰囲気になっていることだし、

少しくらい時間がオーバーしてもいいよね?と

副校長に目で訴えながら、成り行きに任せた。

日本ではあまり見ない光景だろうなぁ。

これも異文化、おもしろい。

そう思って、写真でも撮っておこうとシャッターを

押した直後、私はハッとして息をのんだ。

つながったのだ。

あのときレニック先生の言っていたことが。

Learner centered class.

いま私の目の前の光景がまさにそれなのだ。

先に理解した学習者が、他の学生の理解を助け、

教える学生側もまた更に理解を深めている。

教育現場における理想的なカタチのひとつを、

私はそこに見ているような気がした。

あの日のレニック先生の言葉が

なぜそのとき私の中でストンと落ちたのか。

自分の中に納得できるものがあったからだ。

知っていること・わかっていること・

できていること。

それらと、人に教えることとは別のはなしである。

誰かにきちんと教えることができて

はじめて理解していると言える。

私はこの事を、日本での短い教員生活で

身にしみていた。

目の前にいる41人の学生たちは、

私よりも長い教員経験があり、

このカレッジで学位を取ったあとは

それぞれの任地にまた戻っていくのだ。

Learner centered classの意味を

彼らはとっくに気づいていたのだと思った。

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