JICA海外協力隊の世界日記

ランバレネ日記

監査

先週、当院を含むガボンのエイズ医療機関を監督する機関からの一団が来て、当院の「監査」を行いました。

監査の内容は、患者の診療状況が適正かどうかの確認を目的に行うものでした。

当院の開設カルテ数は2300余りあるのですが、このうちの現在でも通院と治療を順調に継続できている人たちの分(800余り)について、一つ一つカルテを開けて見ていきました。

私は、監督機関の長(女性の医師)のそばで言われたことをやりながら、この日の作業を見ていました。

カルテの記述を見ながら、

●この時と以前とで処方する薬の組み合わせが違うのはなぜか?

●この検査項目がこの値だったらこういう診断ではないのか?

など、彼女が当院の院長にいろいろ問うてきます。

院長は、普段は何に対しても反応が早く的確な印象があるのですが、そんな人でも考え込んだり、時には答えに詰まったりしていました。

外国人である私にはやりとりの全容はわかり兼ねる部分もあったのですが、診断にもいろいろなアプローチがあるのだと思いました。

また、普段様々な問題や悩みを抱える患者に対し医師として最適な診断を下している院長ですが、問われる質問に対して時折考え込む様子を見て、彼の診断の中にはもしかしたら難しい判断を迫られたものもあったのだろう、と思いました。

院長は気づいたことをメモに書き留める等、熱心に聞いていました。

監督機関の長は非常にリーダーシップを取れる方のようで、大きな声で、話し始めたら止まらない、という感じの方です。

自分の考えをどんどん周りに伝えて物事を推し進めていかなければならない立場にありますが、かと言って自身の考えと周囲の考えが違っても決して自分の意見を押し通したり他の意見を責めたりはせず、どこか理解しようと努め励ましながらやっているような、そんな雰囲気があります。

リーダーとしての一つの良い手本を見せてもらったような気がしています。

彼女がまさにガボンのエイズに対する取り組みを回す中核にいるのだな、ということが如実にわかります。

今回のように、現場の医師だけでなく、監督機関の長自ら入り治療状況の確認を行うというのは、大変しっかりした取り組みではないかと感じました。

必ずしも良質な治療を提供できるかどうかわからない限られた環境において、いくらかでもより良い質の治療を担保する上でこうした作業は大事なことだと思いました。

私のしていた作業は彼女が確認を終えたカルテに、日本語で言うところのいわば「確認済」のような書き込みを日付とともにするという単純なものでしたが、一国のエイズに関する取り組みを統括する機関の長の隣に座って、その仕事ぶりを見ながら作業をするというのは体験しようと思ってもなかなかできない、実に貴重な機会だと思いました。

ちなみにHIVは、感染すると治らない、という点は現在でも変わらないものの、抗HIV薬の進歩によって免疫力を維持し、エイズの発症を抑えることが出来るようになっています。

そのため、適切に服用をすればHIV陽性者は一般の人と同様に生活し、長く生きることが出来るようになっています。

この点、HIVが完治する治療法が見つからない限りは、患者数が劇的に減ることはなく、当院に登録される患者さんの数が増えることがあっても減ることはないと考えています。

長寿命化が実現できていること自体は、患者さんにとって良いことであることは間違いありません。

しかし、例えば今回みたいな患者のカルテをたくさんひっくり返して確認する、というようなことを定期的に実施するとなると大変な労力となります。

今回のような監査は、当院だけでなくガボン全土のエイズ医療機関が対象のものですが、他のところでは患者への診察を丸々一日取りやめて、監査作業の対応にあたらざるを得なかったということも聞いています。

目の前の患者さんへの対応を怠ることなく、サービスを提供する診療施設全体としての質をどう上げるか。

患者を受け入れて治療する立場で見ると、増え続ける患者さんに対応できる態勢を長期的にどう作っていくべきか。

現場やボランティアの取り組みだけでは手に余るのではないか、という気がしました。

国全体としての関わりが必要なのは当然で、それに加え外部の専門的な知恵も取り入れつつ、持続的・継続的な態勢を作っていく取り組みが求められるのではないか、という気がしました。

写真1:棚から出されたカルテ。これでもまだ一部です。

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