JICA海外協力隊の世界日記

ブータン便り

穏やかさの二面性

Kuzuzanpola! 隊員の岩井です。

読者の皆さんはブータン人に対してどのような印象をお持ちでしょうか?足るを知り、自然を大切にし、信仰深く、穏やかに暮らしているといったイメージを抱く方も多いかもしれません。今回はその「穏やかさ」に一抹の疑問を抱いた出来事について綴りたいと思います。あくまで一個人の見解として受け取ってもらえると幸いです。

先日パロツェチュに行った際の出来事です。ツェチュでは出店があり、軽食や飲料水、おもちゃなどが売っています。おもちゃの出店では風船や人形といった全年齢対象のものから、日本であれば対象年齢が設けられるエアガンのような玩具も販売されています。

しかしここブータンでは対象年齢という制度がないため、何歳でも買うことができます。その結果ツェチュの会場では3歳児でもエアガンを親に買ってもらい、挙げ句の果てにはツェチュで踊っている人に銃口を向けて打つような状況です。

日本であれば周りの人が注意しますが、ブータンでは誰も注意していませんでした。皆穏やかに子供が他者に向けてエアガン打っている状況を見守っているのです。一番衝撃だったのは僧侶が子供たちにエアガンの打ち方を教えており、なんとその的にされていたのが他の僧侶だったのです。日本では到底考えられないような光景です。流石にこれは見逃せず、思わず僧侶に対して注意してしまいました。チベット仏教が国教とされており僧侶が尊敬されているブータン社会においては一般人、ましてや外国人の私が僧侶に注意するなど御法度ですが、こればかりは居ても立っても居られませんでした。

他にもツェチュの会場では子供達が踊りに目もくれずにひたすら親のスマホで動画を視聴している光景を目にしました。ただ子供たちはコンテンツの良し悪しをまだ判断できないため、誤ってホラー系や暴力系、アダルト系など子供の心に影響を及ぼしかねない動画を視聴するリスクがあります。いわゆるエルサゲートです。しかしそのような子供がスマホに熱中し、不適切コンテンツを視聴しかねない状況さえも皆穏やかに見守っています。誰も止めませんし注意をしません。このような場面はツェチュに限らず日常生活で頻繁に目撃します。なんなら隣の子供がスマホで見ている動画が私の目に入り、その内容の過激さに私が驚くような時もあります。

冒頭でも書いた通り、外国人から見たブータン人の印象の一つに穏やかさが挙げられると思います。穏やかさは人生の美徳の一つであり、それにより日々を生き急ぎず、家族との時間を大切にし、心豊かに暮らすことができます。私自身このブータン人の穏やかさのおかげで思考が柔らかくなりました。しかしリスクが遍在する現代においてはこの穏やかさが裏目に出てしまうのではないかとブータンで暮らしていて感じます。如何なる場面でも穏やかさを発揮してしまうと先述の場面では子供が他者をエアガンで打って怪我や失明させてしまったり、子供が有害コンテンツを視聴するのを止められなかったりと悪影響の方が勝ってしまいます。

このような現状に対して外国人が何かしようなどというのは非常におこがましいというのはわかっているのですが、なんとかならないものかと思ってしまいます。ただこの「なんとかならないものか」という思いも部外者のエゴであり、それを実行に移せばブータンが大切にしている穏やかさを損なってしまうかもしれません。
このモヤモヤを感じることも海外で暮らすことの一部なのでしょう。少なからずブータン人の友人の子供がそのような状況に陥っていたらリスクをそっと共有するに留め、残りの任期を過ごそうと思います。

P.S.
写真は高地で暮らすヤクです。

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