JICA海外協力隊の世界日記

ブータン便り

スマホと文字

Kuzuzanpola! 隊員の岩井です。

今回はブータンにおけるスマホと文字の関係についての記事です。スマホを利用する際に文字は重要な要素ですが、ブータンでは日本と事情が異なります。


まずはスマホ利用の代名詞でもあるメッセージアプリについてです。日本では主にLINEで家族や友人と連絡するかと思います。私の体感ではありますが、ブータンで使用されているメッセージアプリは概ね以下の順です。
1.WeChat
2.WhatsApp
3.Messenger

WeChatは中国発のメッセージアプリです。なぜブータンにおいてWeChatの利用率が高いかというと、音声メッセージのサービス提供が早かったことが一因と思われます。WeChatの音声メッセージのサービス開始は2011年(参考記事1, 参考記事2)、WhatsAppは2013年(参考記事)、Messengerも2013年(参考記事)です。ちなみにLINEは2012年です(参考記事)。

ブータンにおいては2008年から3G回線が開始されていたようです(BBSの記事)。先に挙げたメッセージアプリは2009~2011年にかけてリリースされましたが、その中でも比較的早い段階から音声メッセージ機能を提供していたWeChatが利用されるようになり、その流れが今日でも続いているのではないかと推測します。

以下は英語が話せないブータン人との私のトーク画面のスクリーンショットです。テキストは一切なく、音声メッセージだけでやり取りしています。
90046.jpg

日本ではあまり音声メッセージに馴染みが無いかと思いますが、ブータンにおいては音声メッセージが主流と言っても過言ではありません。その最たる理由は言語にあります。ブータンでは20以上の言語があり、そのうち文字が存在し普及しているのは公用語に指定されているゾンカ語のみです。ブータン南部のネパール語話者のように文字は存在していても、歴史的要因からネパール語を話せるが読み書きはできないという方々もいます。そのような状況では文字よりも音声メッセージの利用が自然になります。ゾンカ語文字も学校で学びますが、スマホでゾンカ語キーボードを設定している人は極少数です。

若い世代であれば英語でテキスト入力もしますが、高齢者は英語の読み書きをできない割合が大きいので自ずと音声メッセージの利用となります。ゾンカ語やその他のローカル言語をローマ字表記で記載する方も一定数いますが、これもアルファベットを知らない高齢者にとっては無理な話です。そのため自然と文字入力ではなく、音声メッセージを使用します。


続いてはメッセージアプリ以外に関してですが、多くのブータン人が熱中しているのはTikTokです。ブータン人のTikTokへの依存度は凄まじいです。これも体感ですがスマホ利用者の9割以上がTikTokをインストールしており、何かあるとすぐに動画を撮影して適当なBGMをつけてTikTokにアップロードします。私も何度も勝手に無許可でアップロードされ、週明けに「〇〇さんと△△に行ってたね!」と動画を見かけた人から言われる始末です。日本と比べるとまだ肖像権やプライバシーといった概念が重視されていないように感じます。

ブータン人がTikTokに上げる多くの動画は若い世代のダンスや、お寺やハイキングに行ったときの様子の共有ですが、中には目を疑うようなコンテンツもあります。先日ブータン人の友人のスマホでTikTokを見せてもらったところ、葬式の様子をTikTokにアップロードしているブータン人の投稿を目にしました。布に包まれた幼き亡骸、泣き崩れる母親、それらが参列者によって無許可でアップロードされ、そこにいいねが付いていました。もちろんこれはごく一部のポストではありますが、唖然としました。

否定的な側面を述べてしまいましたが、もちろんメリットもあります。TikTokでブータン国内の土砂崩れや洪水、山火事の情報が動画付きでいち早く共有され安全対策情報として役立つという側面があります。日本であればLINEやX、Facebook等で行政から文字ベースのアナウンス等があるかと思います。しかし文字でアナウンスされても英語が読めないブータン人(特に高齢者)にとってはその情報は無価値となってしまうため、動画と音声で共有される情報源の方が役に立ちます。

音声メッセージでも触れましたがブータンの多くの言語は文字が無いことからXやThreadsといったテキストベースのソーシャルメディアとは相性が悪いので、今後もTikTokのような動画ベースのプラットフォームが人気を博しそうです。


本記事ではブータンにおけるスマホと文字の関係について見てきました。
書きながらふと気づいたのは、アルファベットの読み書きができない方にとって、スマホの画面はどのように見えているのだろうかという点です。言うなれば、我々日本人が全く読めないアラビア語やヒンディー語だけで表示されたスマホを利用しているような状況です。
先日の英語教育の問題点の記事に関連しますが、スマホ一つとっても母語だけで全ての生活を完結できる日本語という言語環境は、非常に便利でありがたいものだと改めて感じます。

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