2026/06/05 Fri
医療 活動
薬を使う、その前に――コスラエで考える薬剤師のしごと

Kom fuhkah?(コーン フォキャ/コスラエ語で「お元気ですか?」)
今回はミクロネシア連邦コスラエ州からお届けします。
2025年4月より、コスラエコミュニティヘルスセンター(KCHC)という診療所を中心に、コスラエ州で薬剤師として活動しております、小間 貴洋(こま たかひろ)と申します。
これまでコスラエ州については先輩隊員の方々が紹介してくださっていますので(前回の記事はこちらからどうぞ:コスラエで迎える特別なクリスマス)、今回は私の活動についてご紹介したいと思います。
その前に、簡単に自己紹介を…
プロフィール
【名前】 小間 貴洋(こま たかひろ)
【出身】 神奈川県横浜市
【隊次】 2024年度3次隊(2025年4月~2027年4月)
【職種】 薬剤師
【配属先】 コスラエコミュニティヘルスセンター(Kosrae Community Health Center)、コスラエ州立病院
【日本での仕事】 約5年間病院薬剤師として勤務
【ミクロネシアでの仕事】 医薬品在庫の適正化とスタッフ・地域住民への教育
さて、本題に入ります。
「JICA海外協力隊の薬剤師って、海外でどんな仕事(活動)をしているのですか?」
そう聞かれることがあります。
赴任して1年が過ぎても、いまだにこの答えに、なんて説明していいのか悩むことがありますが、(そもそも薬剤師という仕事も理解できているのか…)これまで自分なりに考えてみた話を書きたいと思います。少々長くなりますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
薬剤師と言えば、薬を調剤したり、患者さんに薬の説明をしたりする姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。私自身も協力隊に来る前は、もっと患者さんと直接関わる活動を想像していました。
しかし、現在の活動では、患者さんに直接薬を渡す機会はそれほど多くありません。薬の知識を活かしながらも、医薬品の廃棄物管理、保管環境・物流の改善、医療安全への対応、スタッフのモラルや接遇の教育など、一見すると「薬剤師らしくない」活動に多くの時間を使っています。
そんな活動をコスラエでする中で、最初の問いの答えについて、今の私は、薬剤師の仕事は川の流れを整える仕事、少し大げさに言えば河川工事のような仕事だと考えるようになりました。

私の主な活動先であるKosrae Community Health Center(KCHC)では、医薬品の在庫管理が大きな課題です。
「在庫管理」と聞くと、単に薬の数を数え、発注する仕事を想像するかもしれません。
しかし、実際にはそれだけではありません。
どの薬が、どこに、どれくらいあるのか。
期限は切れていないか。
温度や湿度は適切か。
薬が足りなくなる前に気づけるか。
どこから薬を調達し、必要な薬が、必要な患者さんに届けられる状態になっているか。
医薬品は人の命や健康に関わるため、一般の商品以上に慎重な管理が必要です。在庫数だけでなく、品質、期限、使用量の予測、発注、輸送状況まで含めて考えなければなりません。
特に島嶼地域では、天候や物流の影響で医薬品の到着が遅れることもあります。そのため、先を見越して計画的に供給を維持することが欠かせません。

ある日には、医薬品がネズミにかじられてしまったことがありました。
日本ではあまり想像しにくいかもしれませんが、ここでは保管環境も大きな課題の一つです。薬はただ棚に置いておけばよいものではなく、湿気や暑さ、虫やネズミなどから守らなければならないことを改めて実感しました。
また最近は、医師たちと診療所で使用する医薬品リスト(フォーミュラリー)について話し合う機会がありました。
どの薬を優先して準備するのか。限られた資源の中で何を選ぶのか。
医師、看護師、薬剤師(私)、事務員などスタッフそれぞれでは視点が異なるため、日本で病院薬剤師として働いていた時にも感じたことですが、議論が簡単にまとまるわけではありません。ただ、その対立のように見える時間も、本当はより良い医療を考えるための大切な過程なのだと、私と活動を共にしているカウンターパートから教えてもらいました。
「物事は最初は思い通りに進まないこともありますが、最終的にはみんながその重要性を理解するでしょう」
そう言われた言葉が印象に残っています。いわゆる「島時間」で思うように進まないこともありますが、それぞれの専門性や立場を持ち寄りながらより良い医療を考える『過程』こそが大切なのだと、現地スタッフとのやり取りを通じて学びました。
こうした経験を重ねる中で、薬剤師の仕事は「薬の流れ」を整えることなのだと感じるようになりました。
川には、もともと自然の流れがあります。
医療にも、薬にも、同じように流れがあります。
薬が作られ、運ばれ、保管され、処方され、患者さんに届き、正しく使われる。
この一連の流れがスムーズであれば、人々は安心して医療を受けることができます。
しかし、その流れは放っておけばよいものではありません。
時には流れが滞ることがあります。
時には水が濁ることがあります。
時には氾濫することもあります。
薬でいえば、必要な薬が不足すること。
期限切れの薬が残ってしまうこと。
保管状態が悪く、薬の品質が落ちてしまうこと。
情報共有が不十分で、同じ薬が重複したり、物はあるのに必要な薬が使われなかったりすること。
こうした問題は、普段は見えにくいものです。
川が毎日きれいに流れている時、人は護岸や堤防、ダムの存在を強く意識しないかもしれません。けれど、ひとたび氾濫や水質汚染が起これば、生活に大きな影響が出ます。
薬の世界も似ていると思います。
薬が安全に届いている時、その裏側にある仕組みはあまり目立ちません。けれど、薬が足りない、薬があっても間違って使われる、品質が保てないということが起これば、患者さんの健康に直結します。
だからこそ、薬剤師はこの「薬の流れ」を整える仕事なのだと思います。
ダムをつくるようにルールを整え、護岸をつくるように安全対策を考え、川の水質を確認するように薬の品質や使用状況を見守る。災害や事故が起きないように、日々の小さな異変に気づき、流れを整えられるように。
そのような仕事(活動)を、コスラエで改めて実感しています。
一方で、この活動の難しさや現実も日々感じています。
薬が足りない・薬があっても使えていない背景には、物流、予算、情報共有、人員不足、制度、学ぶ機会の限られた環境など、いくつもの要因があります。その多くは簡単に解決できる問題ではありません。誰かを責めればすぐに解決するものでもなく、一つの対策だけで状況が大きく変わるわけでもありません。また、ボランティアである私は、主役ではありません。だからこそ、私一人でできることがあっても、現地の人たちが自分たちで行動し、続けられる仕組みを、できるだけたくさんの人たちと一緒に考え、そのための過程や見守るための時間、忍耐が必要です。
さらには、自分の英語力が足りない、知識も、経験も、コミュニケーション力も、まだまだ足りないと思うことがあります。
そして、根本的にはお金や資源の差が健康の差につながってしまう現実を目の前にすると、やるせない気持ちになることもあります。
それでも、活動を続けられる嬉しい瞬間があります。
州立病院の薬剤師が、新しい在庫管理システムの導入を嬉しそうに見せてくれた時。診療所で改善した薬棚が、その後もスタッフによって使われ続けていた時。新しい知識を理解して、感謝された時。
これらは、一見すると誰かの命を救ったような大きな変化ではないかもしれません。
しかし、薬が見つけやすくなること、期限切れに早く気づけること、必要な薬が必要な人へ届き、使いやすくなることは、確実に患者さんの安全と健康につながっていると思います。
小さな溝を整えることで、川の流れが少し良くなるように、日々の小さな改善が、薬の流れを少しずつ整え、人の笑顔や小さな幸せにつながっていることがわかると、「ここに来てよかった」と感じます。
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日本では、ドラマなどを通じて、薬剤師の仕事を知っている方もいるかもしれませんが、それでも薬剤師の仕事は「薬を渡す人」というイメージがまだ強いかもしれません。
でも、薬剤師の仕事はそれだけではありませんでした。
患者さん、その家族、医師や看護師、地域全体、そして医療の仕組みにも関わる仕事をしています。
コスラエでの活動を通じて、私はそのことを改めて実感しています。薬が安全に届くまでには、見えない仕事がたくさんあります。そして、その見えない仕事を現地の人たちと一緒に支えることが、協力隊の薬剤師としての大切な役割なのだと思います。
薬の流れが止まらないように。
濁らないように。
あふれないように。
そして、必要な人のところへ、必要な形で使えるように。
この記事を読んでくださった方に、少しでも「国際保健の中で薬剤師ができること」に興味を持っていただけたら嬉しいです。特に、薬学生や薬剤師の方に、薬剤師の可能性は国内の病院や薬局の中だけにとどまらないということを感じてもらえたらと思います。
まだ私自身も学びながらの毎日です。うまくいかないことも多くありますが、現地のスタッフと一緒に考えながら、「薬が必要な時に、必要な場所で、安全に使える仕組みづくり」を少しずつ進めていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Kuht fah ohsun!(カット ファ オーシュン/コスラエ語で「さようなら、また会いましょう」)
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