2025/12/24 Wed
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パプアニューギニア 東ハイランド州で農業の力を育てるVol.2 ~緑肥導入に至るプロセス~

1.農家経営調査から見えてきた課題
ゴロカで活動を続けるなかで、農家リーダーの方々に聞き取りを行い、経営調査を進めてきました。その結果、病害虫防除や施肥にほとんどコストをかけていない実態が明らかになりました。日本の農家でも新しいコストを嫌う傾向はありますが、PNG ではそれがさらに顕著であると感じました。

表1 農家経営調査:主要作目における病害虫防除・施肥の支出状況。
調査した複数農家の支出額を比較したもので、農薬・肥料ともほとんど支出がないことが分かる。
2.土壌調査の実施と「窒素不足」の確認
農家調査に加えて、地域の農科大学の学生を対象とした職場研修として、8つの集落の土壌調査を実施しました。鉱物構成、酸度、窒素量などの化学分析を行った結果、酸度には問題がない一方で、窒素量が不足していることを確認しました。窒素不足の改善は、地域農業の安定化に向けた重要な課題であると再認識しました。

写真1 学生とともに実施した土壌分析結果
土壌酸度(pH)に大きな問題はない一方で、窒素が低いことが判明した土壌の一例。
3.堆肥利用の限界と文化的背景
土づくりの方法として堆肥利用も検討しましたが、踏査の結果、家畜頭数が絶対的に少なく、堆肥の原料が不足している状況が分かりました。また、人糞の利用については強い拒否感があり、寄生虫など衛生面の危険性を体感的に理解していることが背景にあると考えられました。そのため、堆肥による土づくりは現実的ではありませんでした。
4.海外文献から“緑肥”という選択肢に到達
窒素不足を補い、同時に土づくりも進められる方法を探るなかで、海外の文献を調査しました。その結果、緑肥(Green Manure)という選択肢に行き着きました。緑肥には、土づくりの促進、窒素供給、病害虫の軽減といった効果が期待できます。また、標高1500メートル級でも栽培可能な文献事例を確認し、ゴロカの気象条件に適すると考えられるクリムソンクローバー、クロタラリア、カラシナの3品種が候補として選定されました。
5.DAL(農畜産局)スタッフ等との協議と「試験ほ場」の方向性
DALスタッフとの協議を重ねた結果、いきなり農家へ普及するのではなく、まずは自分たちで技術を確かめるべきだという方針で一致しました。そのため、試験ほ場を設置し、まずは技術検証を行って効果や地域適応性を確認することになりました。

写真2 DALスタッフ、学生との技術検討会議 導入初期は普及目的ではなく、自ら検証する方針で一致した場面。
6.国内入手困難な3品種と“輸入”という選択
しかし、候補となった3品種は PNG 国内ではほぼ入手が困難でした。そのため、日本から正式に輸入することが現実的な選択肢となりました。
7.検疫・書類の確認と、輸入可能性の確信
輸入に向けて、NAQIA(PNG検疫当局)との調整、日本側植物防疫所での証明取得、種子消毒の確認、外来種リスク評価など、必要な手続きを一つずつ確認しました。その結果、正式なプロセスを踏めば3品種を問題なく輸入できる見通しが立ちました。
8.3品種の輸入決定と、8月の到着
こうして、DAL内部で緑肥3品種を輸入し技術検証を行う方針が正式に決定しました。準備と手続きは順調に進み、8月には緑肥種子がPNGに到着しました。長い準備期間を経て、緑肥導入に向けた取り組みがようやく大きな一歩を踏み出しました。
9.Vol.3へのつながり
次号(Vol.3)では、試験ほ場の整備、播種の様子、農家やスタッフの反応など、現地試験が本格的にスタートする場面を紹介する予定です。
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