JICA海外協力隊の世界日記

インドネシア日記~ソロ活動中~

#29 協力隊生活の総括(最終回)

こんにちは!

インドネシアに来て約2年となる今月11月で、JICA海外協力隊員としての任期が終了します。ブログの最終回となる今回は、この2年間を振り返りたいと思います。

1年目の振り返りについては、以下の記事をご覧ください。本記事においても、1年目の振り返りと内容が重複する点がありますが、ご了承くださいませ。

#17 インドネシア生活1年の振り返り(生活編)

#18 インドネシア生活1年の振り返り(活動編)

協力隊参加へのきっかけ

私がJICA海外協力隊に応募したきっかけは、ふと頭に浮かんだとある疑問でした。私は海外旅行が好きで、今まで10ヵ国以上を旅してきました。旅行中は、有名な観光地を回り、美味しいものを食べ、楽しいことだけを体験できます。ただ、これはその国の表面をなぞっているだけで、歴史や文化、人柄など、その国のことについて理解したことにはならないのではないか。そのことに寂しさを覚えました。

JICA海外協力隊員としてその地に根を張って活動し、現地の方々と交流することではじめて、その国のいいところ、悪いところも含めて深く理解できるのではないかと思い、参加を決意しました。

活動面での悩みと学び

新型コロナウイルス感染症拡大を理由に、当初の予定から2年半以上遅れて派遣される運びとなりました。2年半の待機期間中に派遣先の組織再編が行われ、それに伴い当初の要請内容は白紙状態となりました。

当配属先に初めて派遣されたソーシャルワーカー隊員として、組織体制の理解から始まり、同僚との関係性構築、協力隊員への活動ニーズの把握などを行っていきました。最初の3ヶ月ほどはインドネシアのソーシャルワークについて見学し、日本との違いを感じながら、自分が得意とする利用者個人に重きを置いた支援をどのようにしていけばよいのか考えていきました。

派遣されて半年ほど経過してから、改善が必要と感じた部分について提案したり、利用者にとって有用だと思えるワークなどを行っていきました。2年間で幅広い活動をしてきましたが、私が特に力を入れた活動は次の2つです。

1、心理社会性を養うためのワーク

日本で未経験であった心理に関するワークショップを手探りの状態でスタートしました。毎回授業の内容を考え、身体障害、精神障害、知的障害など様々な障害特性を抱えた利用者に理解してもらいやすい授業構成を考えていきました。「マインドフルネス」「自己肯定感」「ストレングス」「傾聴力」「アンガーマネジメント」「目標設定の大切さ」など日常生活を過ごす上で大切な内容について、利用者30人以上を前にワークショップを開催しました。難しい言葉については同僚に通訳してもらいながら、週1回のクラスを実施しました。

2、カウンセリング及び利用者個人への課題設定

利用者に対してカウンセリングを定期的に行うことで、利用者の興味・関心を聞き出し、長所を伸ばす取り組みや、日常生活の困りごとに対する改善策について一緒に考え、助言等をしていきました。特に問題行動等がみられる利用者に対し、頻繁にカウンセリングを行い、精神面でのサポートをしていきました。利用者の特技を見つけ、それを伸ばすための課題に取り組んでもらいました。また、集団に馴染めない利用者が少しでも社交性を身につけられるように少人数のワークを実施し、他人と接する障壁を下げられるよう努めました。

一方で、自分の活動を進めていくにつれて、同僚と意見が衝突する場面が増えていきました。私にとっては意味のある活動と思っていても、同僚にはその必要性について理解を得られないこともしばしばありました。なぜわかってもらえないのだろうと、私自身はやるせない気持ちになってしまい、同僚とコミュニケーションを取ることが怖くなることもありました。「ケンはインドネシアの現場に合わせるべきだ!」と強く言われたときに、悲しくなり、自分の存在意義を見失うこともありました。生きてきた環境や文化が違うのだから、異なる価値観を持っていて当然であり、どちらか一方が正しいというものではありません。同僚の考えを受け入れたうえで、いい妥協点を見つけながら、日々の活動を行っていくことにしました。

当時を振り返ると、配属先において自分の存在意義を感じられず、一人でプレッシャーを感じて焦っていたのだと思います。途中から、いい意味で開き直り、流れに身を任せようと、同僚の意見をありのまま受け入れると同時に、同僚の意見に自分の意見を少し足していくようにしました。一人で全てを背負う必要はなく、あくまでインドネシアの人々が主役です。私はスパイス程度の存在であろうと肩の力を抜くことにしました。

同僚は今までインドネシアの福祉現場で長年の経験があります。日本人の私にとっても学ばせてもらえることがたくさんありました。相手の文化や考えを尊重しながら活動を進めていくことは一筋縄ではいかないことが多かったのですが、同僚と議論し、意見を交わし、少しずつ現状を前に進められたことは貴重な経験であったと感じています。

隊員経験を通じ、知らない土地で一人でやっていく「環境適応能力」や課題を見つけ、解決策を模索し、実行していく「課題発見能力、実行力」を身につけることができました。

生活面での支え

精神的に辛いときに支えになってくれたのは、任地ソロの人々でした。私は「ayambakar」という鶏肉を甘辛いたれで焼いたものが大好きで、家の近くにあるレストランに足しげく通っていました。そこの店員さんの一人、ニコさんには本当にお世話になりました(上の写真はニコさんとの写真です)。

ニコさんは日本語を少し話すことができ、「ケンさん、何食べる?」と片言の日本語で私に語り掛けてくれます。私が落ち込んでいるときには「ケンさん、大丈夫?」と気にかけてくれました。

普段の店内BGMはインドネシアの伝統的な曲なのですが、私に元気がないことを悟ると、日本語の曲をかけてくれます。AKB48の「365日の紙飛行機」をかけ、ニコさん自身も陽気に歌っています。聴いているうちに、私の心は少し軽くなっていきました。「頑張ってください」とお会計の際、優しく声をかけてくれたことで、あともう少しだけ頑張ろうと思えました。

ニコさんの他にも、大学で働いているティウィさんも常に私のことを気にかけてくれました。イベント等があればいつも声をかけてくれ、親戚の集まりには毎回呼んでもらうなど、家族ぐるみで仲良くしてもらいました。移動手段が限られている私を、毎回家まで車で迎えに来てくれました。時折私がこぼす愚痴に対しても、笑顔で聞いてくれました。その厚意に対し私から返せるものはありませんでしたが、ティウィさんは変わらず温かさや優しさを与えてくれました。

ニコさんやティウィさんの他にも多くの方が私と仲良くしてくれました。以前の記事で紹介した同僚のプロボさんトゥティさんなどを含めて、これらの心優しい人達がいなければ、任地ソロでの生活は成り立ちませんでした。2年前には全く知ることのなかった人たちが、自分の人生の中で大切な人になりました。

「今幸せ?」

たまたま任地近くの市場で買い物をしているときに、日本語が書かれているTシャツを着ているおじさんを目にし、思わず写真を撮らせてもらいました。そこに書かれていたのは「今幸せ?」の文言です。私の心に問いかけてきました。

広辞苑によると、「幸せ」とは

  • 運がよく、恵まれた状態にあること
  • しあわせ、幸福、好運とのこと

2年間を振り返り、私の協力隊生活は紆余曲折ありながらも、周りの環境に恵まれていたと感じます。

職場の敷地内にある住居に住むことで利用者や職員と親しくなることができたこと。今まで日本で未経験であった心理のワークに挑戦できたこと。職場以外のコミュニティに所属し、活動時間外の余暇も楽しく過ごせたこと。

断水が続いたり、同僚との関係性がうまくいかなかったり、体調不良で入院したりと苦しい経験もたくさんしましたが、今となってはとても良い思い出で、自分を一回り成長させてくれた出来事としてポジティブにとらえています。

海外で一から人間関係を築き、活動をおこなっていく。日本でのコンフォートゾーン(ストレスのない快適な環境)を飛び出し始まった協力隊員としての生活は2年間が経過し、インドネシアが新たに自分のコンフォートゾーンに加わりました。

ようやく私の協力隊生活は終わりを迎えようとしています。私は「今幸せ」です。

私に関わってくれた全てのインドネシアの人々の「幸せ」を心から願っています。

今後について

任期を終えた後は、元にいた職場に復帰します。日本の同僚たちとまた仕事ができることを楽しみにしています。帰国後に戻る場所があることで、捨て身の覚悟で協力隊員として活動することができました。

現地での経験で得た「環境適応能力」や「課題発見能力、実行力」を元の職場でも活かしていきます。障害のある方や社会的に脆弱な立場にいる方々に2年間密接に接し、利用者にとって一番良い支援を考え、実践してきた経験から、日本においても利用者ファーストの福祉を実践していきたいと考えています。利用者それぞれが持っている能力に気づいてもらい、その能力を伸ばせるよう働きかけていきます。

利用者にとって今、何が必要なのか、どういうケアが求められるのかについて考え、利用者の自立を支援していく。ソーシャルワークの仕事には正解がなく、一朝一夕には結果が出るものではありません。とても難しく、奥深いものです。これからも迷いながらもソーシャルワーカーとしての経験を積んでいきたいと思います。

終わりに

世界日記の執筆もいよいよ終わりが近づいてきました。ブログを書くことは私の人生で初めての経験で、インドネシアの生活で驚いたことや珍しい体験、私の感情が揺れ動いたことなどについて、思うがままに書いていきました。私にとってインドネシアでの活動や生活を振り返る良い機会にもなりました。私の記事により、隊員の活動や生活について少しでも知ってもらえたとしたら、とても嬉しく思います。

最後まで私の記事を読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。また世界のどこかでお会いしましょう。

terima kasih banyak!(読み方は ”テリマカシ バニャ”  意味は 本当にありがとう")

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